【独習】ゼロから 一歩ずつ 物理の見方・考え方 Home

3.2 どのようにして運動方程式は導かれたか?

 先ほど記載した通り、運動方程式は、人間が自然の中に発見した法則です。そのため、「なぜこのような関係になるのか?」を納得するには、「どのような実験で人間は発見したのか?」を見てみるのが一番かと思います。

 中学校の授業では、”記録タイマー”と呼ばれる装置を用いた2つの実験から見ることが多いと思いますので、ここで確認してみましょう。

 

 記録タイマーはとっても単純な装置で、50Hz(←1秒間に50回の頻度)でリボン状の紙に黒い印をつけてくれるだけのものです。

 リボンを台車のお尻につけて台車を動かすと、台車がリボンを引っ張り、その動いているリボンに記録タイマーが50Hzという一定の間隔で印をつけてくれます。

 こんな単純な装置ですが、一定の間隔で印をつけてくれているので、印と印の間の距離によってリボンが動いた速さ、つまりは台車が動いた速さが分かるのです。より具体的には、1つの間(打点と打点の間)は1/50秒(←50Hz、1秒間に50回打っているので、間隔は1/50秒)となることから、間の距離をメートルの単位で表し、1/50で割った値を計算すると、それがm/sで表した、その区間の平均の速度になるのです。

 ⇒よく分からない場合は、「記録タイマーは速度を測ることができる!」と思って先に進みましょう。

 

 運動方程式$m\overrightarrow{a}=\overrightarrow{F}$がどのようにして発見されたのかを考えたいので、台車を引く力の大きさ$F$と台車の加速度$a$の関係を調べる実験と、台車の質量$m$と台車の加速度$a$の関係を調べる実験を紹介します。

 

 

 

実験1 台車を引く力の大きさ$F$と台車の加速度$a$の関係を調べる。

実験デザイン

疑問:

  台車を引く力の大きさ$F$と台車の加速度$a$の関係は?

変数:

  独立変数:力の大きさ$F$、従属変数:台車の加速度$a$

方法:

  (1) 図のように装置を組み立てる。

  (2) 定規を持ち、ゴムの伸びが常に10cmになるようにしながら台車を引っ張る。

    (常に力がゴムを10cm伸ばしたときの力の大きさになるように)

  (3) (2)と同時に記録タイマーのスイッチを押し、台車の動きを記録する。

  (4) ゴムの伸びを20cm、30cm、40cm、50cmに変えながら、(2),(3)を繰り返す。

    (力の大きさを、ゴムを20cm、30cm、40cm、50cm伸ばしたときの大きさにする)

  (5) 得られた記録タイマーのデータを解析する。



 

実験結果

 記録タイマーから得られた各時刻における平均の速さを表すと次のようになる。



 色の違いは、ゴムの伸びの違い、つまり、台車にはたらく力の大きさの違いです。また、各グラフの傾きは(v-tグラフの傾きなので)加速度を表します。

 このゴムの伸びの違いと加速度をグラフに表すと、次のようなグラフが得られます。



 この結果はゴムの伸び加速度が比例することを示しており、ゴムの伸びはゴムによって台車を引っ張る(弾性力)と比例関係にあることから、力と加速度が比例関係にあることを示唆しています。

 以上より、実験結果は(比例を表す「∝」という記号を用いて書くと)aFとなります。

 

実験1まとめ:a∝F(加速度 は台車を引く力の大きさ に比例する)

 

 

 

実験2 台車の質量$m$と台車の加速度$a$の関係を調べる。

実験デザイン

 疑問:

  台車の質量$m$と台車の加速度$a$の関係は?

 変数:

  独立変数:台車の質量$m$ (台車(500g)の上におもりを載せて質量を変える)

  従属変数:台車の加速度$a$

 方法:

  (1) 図のように装置を組み立てる。

  (2) 定規を持ち、ゴムの伸びが常に10cmになるようにしながら台車を引っ張る。

    (常に力が一定になるように)

  (3) (2)と同時に記録タイマーのスイッチを押し、台車の動きを記録する。

  (4) 台車の上に500g, 1000g, 1500g, 2000gのおもりを載せ、それぞれ(2),(3)を繰り返す。

  (5) 得られた記録タイマーのデータを解析する。

 

実験結果

 記録タイマーから得られた各時刻における平均の速さを表すと次のようになる。



 色の違いは、台車の質量の違いです。また、各グラフの傾きは(v-tグラフの傾きなので)加速度を表します。

 この台車の質量の違いと加速度をグラフに表すと、次のようなグラフが得られます。



 この結果は物体(台車+おもり)の質量 と加速度 が反比例することを示しています。比例を表す「∝」という記号を用いて書くと、a∝1/mである。

 

実験2まとめ:a∝1/m  (加速度$a$は台車の質量$m$に反比例する)

 

 

 以上より、実験1、実験2から次のようにまとめられます。

 加速度$a$は力$F$に比例し、質量$m$に反比例する。 

 これを「∝」という記号を用いて書くと、aF/mとなります。よって、両辺に を掛けることで次の関係が得られます。

 maF

 これが有名な運動の法則です。

 

 そして、これをもとに、この法則を式にしたのが、有名な「運動方程式$ma=F$」です。

 加速度も力もベクトルなので、より正確には$m\overrightarrow{a}=\overrightarrow{F}$です。

 この式は、高校物理で最も大切な式だと思ってください。力学に限らず、どの分野においても、この式は必ず顔を出してきます。今後、長い付き合いになりますので、少しずつ仲良くなっていって下さい。

 なお、この式は物体にはたらく力が複数ある場合にも成り立ちます。複数の力がある場合には、物体にはたらくすべての力の合力を、右辺の$\overrightarrow{F}$にしてください。物体にはたらくすべての力の合力が、その物体の運動を決めるのです。

 

 もしかすると、日常生活の実感とは異なることもあるかもしれません。例えば、自転車に乗っていると、力強くペダルを踏むほど速くなります。つまり、感覚としては、一見、力の大きさ$F$と速度の大きさ$v$が関係していそうです。しかし、自転車の状況を正しく考えると、車輪が回るときの摩擦力や空気抵抗を考えなければなりません。このような、普段は気にしていないような力のことも正しく含めて考えると、やはり、運動の法則は現象を正しく説明するのです。

 直感だけに頼ってはいけません。正しい方法ですべての力を見つけ、運動方程式を正確に利用すれば、必ず、日常生活でも運動方程式が成り立つことが分かると思います。物理学を正しく理解しましょう。

 蛇足ですが、上の例のように、日常生活には普段気にしていない力がたくさんあります。それゆえに、運動の法則はニュートンが発見するまで、長い間見つからなかったのかもしれません。

 

 

ma=Fのように、イコールでつないでいいの?

 この実験が示唆しているのは、maFまでです。イコールでつないでいいものでしょうか?言いかえると、maFの比例定数はいくつなのでしょうか?比例定数を1として良いのでしょうか?

 答えは「比例定数は1としてよい」、つまり、「イコールでつないでma=Fとして良い」です。なぜでしょうか?

 これは、ニュートンという単位を「1kgの物体を引っ張ったときに、1m/s2の加速度にできるような力の大きさを1Nとしよう」と定めたのです。

 どういうことか、昔の日本の不便な例をもとに考えてみます。

 昔の日本では、長さを測るときに「寸」という単位を使っていました。1寸≒3.03cmです(「一寸法師」は3.03cmほどの大きさということです)。一方で、体積を測るときには「合」という単位を使っていました。1合≒180mlです。お米の量を測るのにはいまだに「合」を使っています。

 このとき、四角い箱があって、3辺の長さがそれぞれ1寸、1寸、1寸だったとしましょう(1寸×1寸×1寸の四角い箱)。この箱の体積はいくつになるでしょうか?1合になるのかというと、実はなりません。

 1寸×1寸×1寸≒3.03×3.03×3.03≒27.8cm3、これは0.154合程度です。つまり、「寸」を用いて長さを測り、「合」を用いて体積を表したければ、3辺の長さを掛け合わせたあとに、0.154倍する必要があります。A〔寸〕×B〔寸〕×C〔寸〕=0.154×A×B×C〔合〕。とっても不便です。

 一方で、現代の世の中では体積には例えばm3やcm3を使うようになりました。この単位は「1m×1m×1mの体積を1m3とする」と定めています。A〔m〕×B〔m〕×C〔m〕=A×B×C〔m3〕。このようなm3という単位を定めたからこそ、比例定数が不要になったのです(比例定数が1になったともいえる)。普段、当たり前だと思って生活していますが、とっても便利ではないですか?

 さて、maFの比例定数がなぜ1になるか話に戻りますが、この「m3」と同じ話です。質量1kgの物体を1m/s3の加速度で運動させるような力の大きさを1Nと定めたのです。そのため、我々は余計な比例定数なしに、ma=Fと計算できるようになっているのです。とっても便利です。

 

力の単位の別表現? 〔N〕=〔kgm/s2〕?

 単位の話を少し続けます。以前、「等式では単位も必ず両辺で一致する」とありました。ma=Fを見ると、左辺の単位は〔kg〕×〔m/s2〕であり、右辺は〔N〕です。このことから、実は〔N〕という単位は、〔kg・m/s2〕と表現できることが分かります。言い換えると、〔N〕は〔kg・m/s2〕という単位に付けられたあだ名です。実は、物理で使う根本的な単位は次の7つしかありません[m(メートル), kg(キログラム), s(秒), A(アンペア), K(ケルビン), mol(モル), cd(カンデラ)]。その他の単位は、全てm2やm/sのようにこれらの単位の組み合わせでできています。そしてときおり、Nや電圧の単位Vのように、組み合わせでできた単位に対してあだ名がついています(〔N〕は〔kg・m/s2〕、〔V〕は〔kg⋅m2/A/s3〕と表せる)。興味がある方は「SI単位系」などと調べてみてください。

 ここで、単位に関して、今後につながる大切な注意ですが、前述のように〔N〕は〔kg・m/s2〕と表せるため、力が出てくるときには、必ずkgやm、秒を使ってください。長さをcmで表したりすると、ma=Fを用いて計算しても、間違いが生じます。

 

いつでも成り立つの?

 実は今回の実験では一定の力を受け、その力の向きに一直線上に運動する場合の実験をしました。そしてma=Fを導きました。高校物理ではこの実験を手掛かりに、$m\overrightarrow{a}=\overrightarrow{F}$と紹介していますが、力の大きさや向きが一定ではないときや、進んでいる向きと力の向きが違うときにも$m\overrightarrow{a}=\overrightarrow{F}$が成り立つのかということ、つまりどんな時にでも$m\overrightarrow{a}=\overrightarrow{F}$が成り立つのかということは、まだ示せてはいません。実は、今後、様々な運動を詳しく見ていき、$m\overrightarrow{a}=\overrightarrow{F}$が成り立つということを検証していきます。「物理」の中では「円運動」や「単振動」という単元が出てきますが、それらも、この$m\overrightarrow{a}=\overrightarrow{F}$を検証している、もしくは$m\overrightarrow{a}=\overrightarrow{F}$を応用していると考えると全体の見通しが良いと思います。この運動方程式とは長い付き合いになりますので、少しずつ慣れていきましょう。人間が見つけた自然の法則なので、すぐに納得できないのは当たり前です。気長に検証する気持ちで、この式を使っていきましょう。

 

 

 運動方程式の威力を少しだけ見てみましょう。実は、力のつりあいも、この運動方程式の帰結と考えられるのです。

$m\overrightarrow{a}=\overrightarrow{F}$を言葉で表すと、次のように言えます。

「加速度$\overrightarrow{a}$はゼロであれば、合力$\overrightarrow{F}$がゼロである」(←左から右に考えた)

「合力$\overrightarrow{F}$がゼロであれば、加速度$\overrightarrow{a}$はゼロである」(←右から左に考えた)

これは「力のつりあい」で学んだ内容に他なりません。

 

 

 

 運動の法則 目次

  はじめに

  1.運動の法則と運動方程式

  2.どのようにして運動方程式は導かれたか?(⇐今ここ!)

  3.運動方程式の問題を解いてみる

    3.1.物体が1つの場合

    3.2.物体が複数の場合

  4.運動の法則は、身のまわりの現象をどの程度、説明しうるか?

    4.1.重いものと軽いものの落下

    4.2.真空中での羽の運動、空気中での羽の運動

    4.3.空気抵抗を受ける物体の運動(雨粒)

    4.4.自転車の速さについての考察