1.6 力の合成、力の分解 と その方法
ベクトルである力では、小学校以来学んできた単純な足し算は通用しないということを見てきました。ここでは、ベクトルの足し算についてもう少し詳しく見てみます。
力の合成
まずは、2人でものを持つときのように、「力を合わせる」方法を学びましょう。力を合わせることを、力を合成すると言います。また、合成してできた力の事を合力(ごうりょく)と言います。
合成する3つの力が一直線上の場合は長さの足し引きをすれば良いので問題ありません。例えば右向き3Nと左向き3Nの力が合成すると、ゼロになりますし、右向き10Nの力と右向き5Nの力を合成すると、右向き15Nになります。直観的なので問題ないと思います。
一方で、合成する2つの力が一直線上にない場合には、次に紹介する方法で足し算をするしかありません。3通りの方法を紹介します。
1.1.1 合力の求め方① 図形を用いた方法(平行四辺形の法則)
1つ目の方法は、2人が荷物を持つ力を考えたときに用いた、図形から考える方法です。作図した際に平行四辺形が出てくることから、「平行四辺形の法則」と呼ばれることがあります。
求め方のまとめ:
1,力Aと力Bの始点を合わせて、力Aと力Bを2辺とする平行四辺形を描く。
2,始点から、平行四辺形の対角線を描く。
⇒この対角線が力Aと力Bの合力を表す。
1.1.2 合力の求め方② マス目を用いた方法
マス目を用いて力の大きさを示すととても便利であることはすでに述べましたが、これは、力の合成をするときにもとても役立ちます。
先ほどの上の例を、そのまま、座標の上に描いてみましょう。すると、次のことが分かります。
合力(緑)の縦方向の大きさは、赤い力の縦方向の大きさと、青い力の縦方向の大きさの和になる。同様に、合力(緑)の横方向の大きさは、赤い力の横方向の大きさと、青い力の横方向の大きさの和になる。つまり、縦と横を分けることで、それぞれ(数字の)足し算ができるようになるということです。
求め方のまとめ:
1,合力の横方向の大きさを、力Aと力Bの横方向の大きさの和から求める。
2,合力の縦方向の大きさを、力Aと力Bの縦方向の大きさの和から求める。
3,合力の大きさは、合力の縦方向の大きさと横方向の大きさから三平方の定理を用いて計算する
力の分解とその方法
1つの力を、それと同じはたらきをする2つの力に分けることを、力を分解するといいます。また、分解してできた力を分力といいます。
まずは、小学校以来学んできた普通の足し算と比較しながら、分解するという操作についてイメージを膨らませてみましょう。例えば、5+4=9 を左から右に眺めると「5と4を足すと9になる」と見ることができます。一方で、同じ式を右から左に眺めると「9は5と4に分解できる」と見ることができます。これと似た考え方をしてみましょう。力 と力 を合成して になるということを、式では と表しますが、これを右から左に眺めたときの操作「 は と に分解できる」が力の分解です。
力の分解は、合成の反対向きであるとイメージすると、分解した後の2力を合成するともとの力に戻ることが分かります。それゆえ、分解する力が対角線になるように、平行四辺形を作図すると、その2辺に、分力を見ることができます。
なお、上の例において9を5と4以外にも6と3や7と2に分解できるように、力も何通りにでも分解することができます。そのため、分解するときには、2つの分力の向きを決めて分解することが多いです。
1.1.3 合力の求め方③ 力の成分を利用した方法
力の成分
上で、分解するときには、2つの分力の向きを決めて分解することが多いと書きましたが、今後の解説の中で特に多く出てくるのが、直交するx軸、y軸を定め、その2軸の方向に分解するという操作です。
x軸やy軸のような数直線の上に分解すると、以前出てきたように、ベクトルの向きを正負の符号を用いて表せるようになります。(下の例では、赤と青のベクトルがx軸とy軸の方向に分解したときの二つの分力です。)
そして、このようにベクトルの大きさと向きを、座標を用いて表現したものを、もともとのベクトルのx成分、y成分と呼びます。(下の例では、緑のベクトルのx成分が「―2」、y成分が「+3」であるということになります)
さて、続いて2つの力を、それぞれの力の成分を用いて合成する方法を考えてみましょう。2つの力から得られた2つの力のx成分は一直線上にあるベクトル同士になるため、以前学んだように、成分同士で普通の足し算をすることで合力のx成分が分かるのです。同様にして、2つの力から得られた2つの力のy成分同士で普通の足し算をすることで合力のy成分が分かります。こうすると、普通の足し算を用いて、x成分、y成分を求めることができるようになるのです。とっても便利になります。
求め方のまとめ:
1,力Aと力Bをそれぞれx方向、y方向に分解し、それぞれのx成分、y成分を求める。
2,x成分ごと、y成分ごとを(慣れ親しんだ)足し算をして、合力のx成分、y成分を求める。
3,合力の大きさは、合力のx成分とy成分から三平方の定理を用いて計算する
いかがでしょうか?実際には、合力を求める際、もしくはもっと一般的に、力と力の関係を式で表す際には、それぞれの力を成分で表し、成分同士で式を立てることが多いです。このテキストの中でも常に出てくるので、分からなくなったらここに戻ってきてください。
練習1 次の力を点線の向きに分解せよ
練習2 次の力の合力の大きさを求めよ
図で1目盛りは10Nを表す。図のように,原点に の5力がはたらいている。
⑴ 合力のx成分、y成分を求めよ。
⑵ 合力の大きさF〔N〕を求めよ。
力と力のつりあいについて 目次
3.ベクトルである力を、どう定義し、測り、式に表し、図示すべきか?
6.力の合成、力の分解 と その方法(⇐今ここ!)
6.1.合力の求め方① 図形を用いた方法(平行四辺形の法則)
7.力のつりあい
7.1.力のつりあいとは?
7.2.力のつりあいの式とは?
8.1.物体が1つのとき(問題演習)