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1.1 力がベクトルであるとはどういうことか?

 力については、生活の中で知っていることも様々ありますので、ここでは、力を考えるうえで、一番大きな変更点をつかみたいと思います。力の、とても不思議な性質です。

 

力の足し算

 次のような状況を考えてみましょう。2人で約10kgの荷物を持っています。

   


   

 仲良く近くに並んで持っているときには、1人で持つときの半分の力で持つことができます(楽です!)が、2人の距離が離れるにしたがって(腕の間の角度が大きくなるにしたがって)1人1人の力は大きくなってしまいます(辛くなります!)。特に、腕の間の角度が120度の時には、1人で持っているときと同じ強さで引っ張ることになるようです。

 もっている荷物が同じであれば、荷物を持ち上げるために必要な力の大きさ(上向きの力の大きさ)は、腕の角度によらず同じはずです。それなのに、1人で持っている力と同じということは、どういうことでしょうか?

 

 図で示すと次の通りです。力が大きければ矢印を長く、小さければ短く、半分であれば長さを半分に描いています。また、後述しますが、力の大きさはN(ニュートン)と呼ばれる単位で測ります。約10kgの物体を持ち上げる力が100Nほどです。



 小学校以来100+100=200と習ってきたのに、力の場合1人分(100N)と1人分(100N)の力を合わせても2人分(200N)にならないことがある、ということです。つまり、力においては、普通の足し算は通用しないということです。

 力を矢印で図示すると、この現象を理解しやすくなります。


  

 図から眺めていると、このように見えてきます。1本の赤を平行移動して、もう一本の赤につなげてあげると、矢印の先端はなんと緑色の矢印の先端と重なります。この図において、この緑の矢印は青の矢印の長さと同じです。つまり、緑の矢印の大きさが100Nであることを示しています。この100Nの力が2人の力を合わせた力の大きさであり、それが、100Nの荷物を持ち上げているということです。

 つまり、力を足すときには、1人分+1人分=2人分という単純な足し算ではなく、矢印をつなげるという足し算をする必要があるのです。実は、力の足し算は数字の足し算ではなく、矢印の足し算なのです。そして、だからこそ、我々は力を矢印で表します。矢印での表記が直感的に便利だというだけではなく、足し算という最も簡単な演算をするためにも矢印で表さなければいけないのです。

 

 なお、実は身のまわりには、力と同様に、矢印で表さなければ足し算すらできない量、というのが、いくつも存在しているのです。そのような量をベクトル量と呼びます。(一方、リンゴの数や温度等、向きを持たない量をスカラーと呼びます。)

 “ベクトル”という単語を覚えることが大切なのではありません。普段見慣れた環境に、思いがけず、未知なるものがあった。そんな、新しい概念との出会いだと思ってください。足し算の仕方すら異なってしまうのですから、今後、新しい量と出会った際には、それがベクトル量なのかスカラー量なのかという点を確認しながら学習を進めてください。

 

 ここまでで力についての認識はアップデートされたはずです。力に関しては、ここまでのところが一番大切であり、理解しにくい所なのではないかと思います。