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3 運動量保存則とは何か?なぜ、どのような条件で成り立つのか?

 たとえば、質量Mの小球(紫)が、質量mの小球(オレンジ)に衝突する例を考えてみましょう。このとき、のちに示すように、二つの小球の運動量の和(←ベクトルとベクトルの和)は、衝突の前後で変化しないことが知られています。運動量の和が保存するということです。これを運動量保存則といいます。

 

イメージで言うと、衝突前の紫の運動量(の矢印)とオレンジの運動量(の矢印)の和が、衝突後の紫とオレンジの和と等しいということです。

式で表すと次のようになります。

$m\overrightarrow{v}+M\overrightarrow{V}=m\overrightarrow{v'}+M\overrightarrow{V'}$

 さらに、これは、2次元を考えても同じことが言えます。例えば、左図のように、平面上を進む紫の小球Aとオレンジの小球Bが衝突した様子を考えましょう。このとき、衝突前のAの運動量とBの運動量の和は、衝突後のAの運動量とBの運動量の和と等しいことが言えます (右図)。

 



3.1 運動量保存則はなぜ成り立つのか?

 運動量保存の法則は、運動方程式と前述の運動量と力積の関係から導くことができます。

 例えば簡単のため、先ほどと同じ状況、一直線上を一定の速度𝑉で運動している質量の物体Aが、同じ直線状を一定の速度で運動する質量の物体Bに衝突し、速度がそれぞれ、になる状況を考えてみましょう。衝突の間にBがAから受ける平均の力をとし、衝突時間をとします(右向き正)。

 

 このとき、AがBから受ける平均の力は、BがAから受ける力と作用反作用の関係にありますので、逆向き(逆符号)の-となります。

「物体の運動量の変化は、物体が受けた力積に等しい」を用いて、A、Bそれぞれの運動量の変化は次のように表せます。

 式A:$MV'-MV = -F\Delta t$ (下図の上)

 式B:$mv'-mv = F\Delta t$ (下図の下)

 

 ここまでくるともう一息、両辺を加えると、A式、B式の右辺が相殺して次式を得ます。

$(MV'-MV)+(mv'-mv) =0$

 式変形をすると、求めたい運動量保存則の式が得られます。

$mv+MV=mv'+MV'$

 

 ぜひ矢印を用いた表記も確認してください。(くどいようですが、運動量はベクトルなので、矢印を用いて表すとイメージが湧きやすいです)。

 

 先ほど紹介した2次元の場合においても、運動量の変化と力積との関係を考えることで、運動量保存則を導いてみましょう。

 小球A、小球Bに対する運動量と力積の関係は、矢印の式で表すと次のようになります。

小球A

小球B

 

 

 これらの二つの式を足し合わせると、右辺の力積が相殺し、次の式が得られます。

 移行すると、次のようになります。

 これが、すなわち先ほど示した運動量保存の式です。

$mv+MV=mv'+MV'$

3.2 運動量保存則はどのようなときに成り立つのか?

 ここで重要な点は、互いに力を及ぼしあう物体同士であったことから、作用反作用の法則により、式A、式Bの右辺($F\Delta t$と$-F\Delta t$)が相殺したということです。つまり運動量保存則が成り立つ条件について、次のことが言えます。

「ある物体系を考えたとき、系に含まれる物体同士の力だけの場合には、物体系の運動量は一定に保たれる。」

この系に含まれる物体同士の力のことを内力、系に含まれない物体からの力を外力と言いますが、この言葉を用いると、次のようにも言い換えることができます。これが良く教科書に載っているいい方です。

 「ある物体系を考えたとき、系が外力を受けなければ、物体系の運動量の和は一定に保たれる。」

 

 なお、2次元の例では、上の緑色で示した力積が相殺しているために、運動量保存則が成り立っているということができます。1次元でも2次元でも全く同じように理解することができるはずです。