3.熱機関の仕組みの簡単な具体例
このページでは、熱機関の中の気体の状態の変化をモデル化し、熱機関の熱効率や熱エネルギーと仕事の関係などについて考察してみたいと思います。これにより、熱効率やエネルギー効率といったところがより具体的にイメージできるようになると思います。
次のような、灰色部の気体を温めたり冷やしたりすることで、ピストンを上下に動かし、荷物を持ち上げる装置を例に、熱効率の計算を考えてみましょう。簡単な装置ですが、温めたり冷やしたりというように、熱を用いて仕事を行っているので、これも立派な熱機関と言えます。
考える熱機関
灰色部分の気体の温度が上がることでピストンが上昇し、温度が下がることでピストンが下降する。これによって重たい荷物を持ち上げる(という仕事をする)。
熱機関を用いた仕事の概要
ピストンが下がったときに荷物を載せます。次に、灰色部分に閉じ込められた気体を温めます。すると、内部の気体の圧力が高まっていきます。そして、圧力が、荷物を持ち上げるのに十分な圧力に達すると、ピストンが上昇します。ピストンが上がったときに台の上に荷物を移動します。このようにして荷物を持ち上げるという仕事をしています。荷物を移動したら再び気体を冷やすことでだんだんと内部の気体の体積が減少し、ピストンは下がっていき、一番下まで来てもさらに温度が下がっていくと、内部の気体の圧力が下がります。そして、最初の状態に戻ります。
この例のように、熱機関は一度仕事をしたら終わりというのではなく、一回サイクルが終わるごとに最初の状態に戻り、何度何度もサイクルを繰り返すことでたくさんの仕事をします(車のエンジンも1分間に何千回という速さでサイクルを繰り返しています)。
なお、ピストンが一定の高さまで上がるとピストンは容器上部に引っ掛かりそれ以上は上昇しない構造になっているものとしましょう。
1サイクルにおける気体の状態変化
この熱機関を詳しく見てみます。すると、次で見るように、1サイクルの間に定積変化→定圧変化→定積変化→定圧変化というように、4回の状態変化を行っていることがわかってきます。熱機関の熱効率を求める場合には、このように1サイクルを詳しく見て、それぞれの状態変化における熱や仕事のやり取りを考える必要があります。熱効率を求める前に、まずは、1サイクルを詳しく見るというところをやってみましょう。
1サイクルは次の㋐から㋙のように分解することができます。
㋐ 最初(荷物を載せる前)の気体の状態を状態A($p_0$、$V_0$、$n_0$、$T_0$)とする。
㋑ 荷物を載せる。
㋒ 気体を加熱すると気体の圧力が高まる。(このとき、荷物とピストンの重さがあるので、ピストンはすぐには動かない⇒体積一定の定積変化)
㋓ 圧力が高まるとピストンを持ち上げ始める。この持ち上げ始める瞬間の気体の状態を状態B( $p'$、$V_0$、$n_0$、$T'$)とする。
㋔ ピストンが上昇し、やがて上昇が終わる。(このとき、荷物とピストンの重さは一定なので、気体内部の圧力は一定である⇒定圧変化)
㋕ 荷物を降ろし、加熱をやめる。(荷物を降ろしても気体の圧力は変化しない。荷物の重さがなくなった分、容器上部にかかる力が大きくなる。)このときの気体の状態を状態C($p'$、$V'$、$n_0$、$T''$)とする。
㋖ 気体の温度が低下してくると気体の圧力が小さくなっていく。(このとき、ピストンは動いていない⇒体積一定の定積変化)
㋗ 十分に小さくなるとピストンの重みでピストンが下降を始める。この下降を始める瞬間の気体の状態を状態D($p_0$、$V'$、$n_0$、$T'''$)とする。
㋘ ピストンが下降し、最初の高さに戻る。(このとき、荷物とピストンの重さは一定なので、気体内部の圧力は一定である⇒定圧変化)
㋙ 最初の高さに戻ったとき、温度は最初の温度と同じになったものとする。(このとき、温度、体積、圧力、物質量も等しいため、状態Aに戻ったと考えられる)
熱効率を考えるために必要なこと
イメージはできてきたでしょうか?さらに熱効率を求めるために、各状態変化による圧力$p$、体積$V$、温度$T$、物質量$n$の変化と、熱や仕事によるエネルギーの移動をまとめてみましょう(上の㋐から㋙を表にまとめただけです)。
※問題を解く際にもこのように考えることになります。
状態A |
定積変化 |
状態B |
定圧変化 |
状態C |
定積変化 |
状態D |
定圧変化 |
状態A |
p0 |
↗ |
p’ |
= |
p’ |
↘ |
p0 |
= |
p0 |
V0 |
= |
V0 |
↗ |
V’ |
= |
V’ |
↘ |
V0 |
T0 |
↗ |
T’ |
↗ |
T’’ |
↘ |
T’’’ |
↘ |
T0 |
n |
= |
n |
= |
n |
= |
n |
= |
n |
|
P/T=一定 |
|
V/T=一定 |
|
P/T=一定 |
|
V/T=一定 |
|
|
加熱 |
加熱、仕事Wout |
放熱 |
放熱、仕事Win |
熱効率$e=\frac{W}{Q_{in}}$を具体的に考える前に、まずは①各変化によって気体の状態($p$、$V$、$n$、$T$)がどうなるのかを考えてみましょう。つまり上記の表の$p'$や$V'$、$T'$などの量を計算してみるということです。
※実際に問題を解く場合には、これらの値のいくつかは問題文中に与えられているはずです。未知の物理量についてはボイル・シャルルの法則(もしくは理想気体の状態方程式)などを用いて求めることが可能です。これについては次ページでまとめましょう。
続いて、熱効率$e=\frac{W}{Q_{in}}$を求めるためには、②気体がした(正味の)仕事 (正味の仕事とは、気体がした仕事$W_{out}$とされた仕事$W_{in}$の差のことです、$W_{out}-W_{in}$ )を計算する必要があります。この例では、熱機関が外に対してした正味の仕事$W$は、区間㋔で外に対してした仕事$W_{out}$から、区間㋘で外からされた仕事$W_{in}$を引いた値です。ここでは全体像をつかむにとどめ、これについては次節でまとめます。
※$W_{out}$と$W_{in}$が同じである状態とは例えば、物を持ち上げて、またもとの位置にまで戻すという状態であり、これは外に対して仕事をしたことにならない。そのため、仕事に関しては、正味の仕事を求める必要がある。
さらに、③加熱時に与えられた熱量$Q_{in}$を計算する必要があります。この例では、加熱しているのは区間㋒と㋔のみですので、この区間㋒と㋔の状態変化において与えられた熱量を求めたいということです。これについても次節以降でまとめましょう。
※放熱している区間㋖と㋘においては放熱しているが、熱効率を考える上では熱機関に与えた熱量のみが気になるので、放熱量を加味する必要はない。
これらの点が理解できれば、熱効率$e$は$e=\frac{W}{Q_{in}}$から直ちに計算することが可能です。熱力学の問題を解くという観点では上記の内容を計算できるようにすることが必要です。次節以降で引き続き前述の①~③について詳しく見ていきましょう。
熱力学 目次
3.熱機関の仕組みの簡単な具体例(⇐今ここ!)