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3.3.2 物体が複数の場合

例題)物体が複数のとき(その1)3つのブロックを一気に押す問題

 

 3つの等しい質量mの物体A、B、Cを、図のように互いに接触させて水平な床の上に置いた。水平方向に大きさがFの一定の力を物体Aの左側から加えたとこところ、3つの物体は互いに接触したまま、加速度の大きさがaで右向きに動き始めた。物体A、物体Bと床の間には摩擦はないが、物体Cと床の間には摩擦があり、すべっているときには大きさfの動摩擦力が物体Cに働いている。

 物体Aが物体Bを押す力の大きさをF1、物体Bが物体Cを押す力の大きさをF2として、次の問に答えよ。





 

(1)物体A、B、Cの運動方程式をそれぞれ書け。図の右向きを正として式を立てよ。

(2)amFおよびfを用いて表せ。

(3)F1F2Fおよびfを用いて表せ。

(4)物体A、B、Cが受ける合力の大きさを、それぞれFおよびfを用いて表せ。

 

解答:

 解き方は前の問題とほとんど同じです。「ある物体の運動は、その物体にはたらく力によって決まる」ので、物体が複数あった場合には、各物体の運動を、それぞれの物体にはたらく力から考えます。やることは同じで、手間が増えるだけだと思いましょう。

 そして、もう一つ大切なことは、複数の物体がある場合には、作用反作用の法則が顔を出してくるということです。

①着目する物体を決める

 まず、着目する物体を決めます。今回の問題では3つの物体が登場するので、それぞれの物体に着目します。

②着目している物体にはたらく力を見つける

 つづいて、着目している物体毎に、はたらく力を見つけます。物体が複数ある場合には、下図のように、着目する物体毎に図を書くことをお勧めします。どの物体に着目しているのかを、明確に意識し、着目している物体にはたらく力のみに注目するためです。図を描き、それぞれの物体にはたらく力を見つけましょう。

 

 まずは物体Aにはたらく力を見つけます。力を見つける際には、「遠隔力」と「接触力」に分けて、それぞれ探します。遠隔力は、離れてはたらく力で、今のところ、「重力」「静電気力」「磁力」のみだと考えましょう。この問題では「重力」だけを考えればOKですが、今は水平方向のみを考えれば良さそうなので、鉛直方向の力(重力や垂直抗力)は無視しましょう(重力と床からの垂直抗力はつりあっています)。

 続いて「接触力」は、触れている物体があれば必ず力がはたらいていると思いましょう。この問題では、物体Aには指と物体Bが触れているので、それらから力を受けます。これらの力の大きさを$F$、$F_1$ としましょう。同様にして物体B、物体Cにはたらく力も探してあげると図のようになります。ここで、物体Bが物体Aから受ける力の大きさを (青の力)としました。物体Aが物体Bを押す力と、物体Bが物体Aを押す力は作用反作用の関係にあるからです。



 

③力を図示し、座標軸を定めて、それぞれの力の成分を求める

 図示すると上のようになります。そして、この図を見ながら、座標軸を定め、成分を求めます。今回は、全ての力が一直線上にあるので、(左右のどちらの向きを正の向きとしてもかまいませんが)加速度の向きである右向きを正とする1本の数直線の上に全てベクトルを表すことができます。

④式を立てる

 ③の成分を見ながら、座標の向きに注意しながら、それぞれの物体に対して運動方程式を立てます。なお、これらの3つの物体はすべて一緒に動いているので、どの物体の加速度も 〔m/s2〕と表すことができます。

 物体A:$ma=F-F_1$

 物体B:$ma=F_1-F_2$

 物体C:$ma=F_2-f$  ((1)の答えです)

 

⑤式を解く

 式を解きます。式を解く前に、式の数と未知数の数を確認しておきましょう。未知数の数が式の数よりも多い場合には、見落としている式があると考えましょう。そのような場合には、連立方程式を解いても解が求まらないためです。今回の問題では、式の数は3、未知数も、(2), (3)で問われている$F_1$、$F_2$、$a$ の3つなので、解くことができるはずです。($F$や$m$、$f$は問題文中で使っていいですよとあるので、未知数とは数えません。) 

 さて、実際に連立方程式を解くと、次のように答えが求まります。

$a=(F-f)/3m$   ((2)の答えです)

$F_1=2/3F+1/3f$ , $F_2=1/3F+2/3f$  ((3)の答えです)

 続いて、(4)です。物体A、B、Cが受ける力を計算したいので、上の運動方程式の右辺に、先ほど計算した$F_1$、$F_2$ の値を代入し具体的に計算します。すると、次の結果を得ます。

 物体Aが受ける力:$1/3F-1/3f$

 物体Bが受ける力:$1/3F-1/3f$

 物体Cが受ける力:$1/3F-1/3f$

 

 物体A、B、Cいずれも同じ大きさの力を受けていることが分かります。これは、何故でしょうか?問題を解く前から予見できていたのでしょうか?

 実はこれは、問題を解く前から分かっていたことです。なぜならば、全ての物体は、質量が等しく、また、(一緒に動いているので)加速度も等しいためです。$ma=F$を考えると、はたらく力をすべて合成した力(合力)はどれも等しくなるはずです。

 

 

 さて、ここで別解を考えてみます。面白いことが見えてきます。

 

別解

 3つのブロックは一緒に動いているので、一つの物体としてみなしてしまうことができそうです。すると、この問題は、3つのブロックがくっついてできた質量$3m$の物体が、指から力 、床から摩擦力$f$を受け、加速度$a$で運動しているととらえることができるようになります。するとすぐに、(2)で求めたこの物体の加速度$a$は

$a=(F-f)/3m$と求められるのです。

 

 つまり、物体がくっついてできている(形を変えない)場合、全体の運動を考えるためには、本問で行ったように一つ一つの物体に着目して考えてもよいし、別解で考えたように一つの物体とみなしても良いということです。ざっくり言うと、部分毎に考えても全体で考えても良いということです(ここで着目している物体の集まり、つまり「全体」のことを「系」と呼ぶことがあります)。

 

作用反作用の法則はなぜ重要?

 先に出てきた「部分毎に考えても全体で考えても良い」という点は、次の事を考えると、普段当たり前に行っていることだと理解できます。

 我々は物体の運動を考える時には、物体を構成する分子一つ一つの運動に着目したりせずに、一つの物体として見ています。上で述べたことは、これを正当化してくれるものです。分子一つ一つを考えても良いし、物体をまとめて考えても良いのです。そして、これは、問題を解く際に前提としたように、作用反作用の法則を前提としているのです。

 つまり、運動方程式は、あくまでも一つの物体の運動しか説明することができませんが、作用反作用も一緒に考えてあげることで、2つの物体の運動を(結びつけながら)一緒に考えることができるようになったと言えます。1つの物体だけでなく、2つの物体として見ることができるということは、3つでも4つでも、分子の数という途方もない数の物体でも、一緒に考えることができるようになるということです。(数学で習う数学的帰納法のような考え方ですね)

 このように考えると、作用反作用の法則というのが、運動の法則と並んで必要不可欠な法則であるということが実感できるのではないでしょうか?

 

例題)物体が複数のとき(その2)

 定滑車に糸をかけ,その両端に質量Mmの物体A,Bをつるす。糸や滑車の質量を無視し,M>m,重力加速度の大きさをgとする。物体Aを静かにはなして降下させるとき,次の各量を求めよ。

(1) Aを吊るしている糸の張力の大きさT

(2) Aの加速度の大きさa

(3) 滑車をつるしている糸の張力の大きさS

 

解答:

 蛇足ながら、この実験はアドウッドの実験と呼ばれる有名な実験です。重力加速度$g$を求めるための実験として知られています(この実験の利点は何でしょう?)。

 さて、問題を解いていきましょう。 

 前問と同様に、各物体の運動を、それぞれの物体にはたらく力から考えます。

①着目する物体を決める

 まず、着目する物体を決めます。今回の問題では2つの物体A、Bが登場するので、それぞれの物体に着目します。まずは、それぞれの絵を描きましょう。

②着目している物体にはたらく力を見つける

 つづいて、着目している物体にはたらく力を見つけます。

 まずは物体Aにはたらく力を見つけます。「遠隔力」は重力のみ。「接触力」は糸から受ける張力があります。それぞれの力の大きさを問題文中の文字を用いて$Mg$、$T$で表します。続いて物体Bにはたらく力を見つけます。「遠隔力」である重力と「接触力」である張力があります。それぞれの力の大きさを問題文中の文字を用いて$mg$、$T$で表します。ここで、物体Aにはたらく張力の大きさも、物体Bにはたらく張力の大きさも同じ になることに注意してください。一本の(質量が無視できる)糸にはたらく張力の大きさはどこでも同じです(興味がある人は、糸の質量を$m$として運動方程式を考え、その質量$m$をゼロとしたときに何が言えるのかを考えてみましょう。両端にはたらく力の大きさが等しくなるはずです)。また、絵を見ると物体Bは床とも触れていますが、「物体Aを静かにはなして降下させるとき」を考えているので、床からの力は考えません。

 

③力を図示し、座標軸を定めて、それぞれの力の成分を求める

 図示すると次のようになります。そして、この図を見ながら、座標軸を定め、成分を求めます。今回は、物体Aの図も、物体Bの図も、全ての力が一直線上にあるので、上下のどちらの向きを正の向きとしてもかまいません。物体が加速度運動をしている場合には、加速度の向きを正とすることが多いように感じますので、今回もそのように座標軸をとりましょう。物体Aは下向きに加速度運動をしているので下向きを正に、物体Bは上向きに加速度運動をしているので、上向きを正とします。2つの物体において、座標の正の向きが異なることは気持ち悪いかもしれませんが、物体Aを見るときは常に下向きを正、物体Bを見るときは常に上向きを正とすることができれば問題はありません(なぜ問題がないのか、よく分からない人は立ち止まって考えてみましょう)。

 

④式を立てる

 ③の図を見ながら、座標の向きに注意し、それぞれの物体に対して運動方程式を立てます。なお、これらの2つの物体はすべて一緒に動いているので、どの物体の加速度もa m/s2〕と表すことができます

 物体A(下向きを正): $Ma=Mg-T$  ・・・(i)

 物体B(上向きを正): $ma=T-mg$  ・・・(ii)

 

⑤式を解く

 式を解きます。未知数は$T$と$a$です。式が2つあるので、連立方程式を解けば二つの未知数、$T$と$a$が求まりそうです。辺々を足してTを消去しましょう。

(i)+(ii)より、

 $Ma+ma=Mg-mg$

 よって、  $(M+m)a=(M-m)g$

 以上より$a=\frac{M-m}{M+m}g$  ((2)の答え)

 

 また、これを(i)に代入すると、$T$が求まります。

 $M\times \frac{M-m}{M+m} g = Mg-T$

 以上より、 $T=2 \frac{Mm}{M+m}g$ ((1)の答え)

 

 最後に(3)の答えを求めましょう。

 「一本の質量が無視できる糸にはたらく力はどの点でも等しい」ことを考えると、下図のように、滑車をした向きに引く(緑色で示した)力は(1)で求めた力$T$と等しいです。この張力$T$が滑車の両側にあります。

 滑車自体に着目し、静止している滑車にはたらく力のつりあいを考えると、上向きの力は2Tと分かります。

 以上より滑車をつるしている糸の張力Sは

 $S=2T=4 \frac{Mm}{M+m}g$となります。

 さて、このアドウッドの実験の利点は何でしょうか?この実験の利点は、重力加速度 $g$を、$g$よりも小さな加速度$a= \frac{Mm}{M+m}g $から測定できるという点です。 昔は、ストップウォッチなどはもちろんありませんでしたので、重力加速度$g$を求めるというのはとても難しいことでした。二つの物体の質量$m$、$M$を調整し、ゆっくり落ちる二つの物体の加速度を測定し、そこから重力加速度$g$を測定したようです。

 そして、のちに見るように、この時代、重力加速度$g$の測定には、とても大きな意味があったのです。

 

 

 

 運動の法則 目次

  はじめに

  1.運動の法則と運動方程式

  2.どのようにして運動方程式は導かれたか?

  3.運動方程式の問題を解いてみる

    3.1.物体が1つの場合

    3.2.物体が複数の場合(⇐今ここ!)

  4.運動の法則は、身のまわりの現象をどの程度、説明しうるか?

    4.1.重いものと軽いものの落下

    4.2.真空中での羽の運動、空気中での羽の運動

    4.3.空気抵抗を受ける物体の運動(雨粒)

    4.4.自転車の速さについての考察