1.3 力学における「仕事」と「エネルギー」の定義は?
ここでは、「仕事」という新しい概念を紹介し、エネルギーとの関連を考えていきます。もちろん、物理学における「仕事」は、日常用語での「仕事」とは異なります。日常用語の仕事の意味をいったん忘れて学び始めましょう。
イメージとしては、押したり引いたりして、物体がどれだけエネルギーをもらったり渡したりしたのか、というのが「仕事」です。基本的には、押されてエネルギーが増えたら、仕事をされたというし、押してエネルギーが減ったら仕事をされたといいます。
エネルギーのやりとりがあったときに仕事をした、などというのですから、仕事はエネルギーの移動の方法に付けられた呼び名であると言えるはずです。
また、押したり引いたりする力によって仕事が生じるので、「仕事」は、人や物がすると考えるのではなく、物体が及ぼすそれぞれの力が「仕事」をするのだと考えましょう。
例えば、「この物体にはたらく垂直抗力がする仕事は〇〇Jであり、重力がする仕事は〇〇Jである。」や「この床が物体に与える力のうち、垂直抗力がする仕事は○○Jであり、摩擦力がする仕事は○○Jである」といった具合です。
エネルギーと仕事の関係はイメージしにくいかもしれません。良くあげられる例は、エネルギーはお財布の中の残高であり、仕事はお小遣い(増)や無駄遣い(減)といったお金の出入りであるという例です。お金の出入りがあるとお財布の残高が変わるように、仕事をしたりされたりすると物体が持っているエネルギーが変わるのです。なお、お金の出入りにも種類があるように、エネルギーのやり取りの方法にもいくつか種類があり、「仕事」はその一つです。他にも「熱」や「光」を放出することでエネルギーをやり取りすることなどがあります。仕事は力を加えて物体を動かすことでエネルギーをやり取りする方法です。
さて、ここで、「負の仕事」という言葉も補足しておきます。
例えば、物体が動いている方と逆に押されたら、その物体のエネルギーは減ります。このとき、この物体は負の仕事をされたなどといいます。また、逆に、物体が別の物体を押して、それによってエネルギーが増えたら、この物体は負の仕事をした などといいます。
押してもらったのにエネルギーが減ったり、物体を押したのにエネルギーが増えたりというのはとても不思議な現象に思えるかもしれませんが、この不思議さは作用反作用の法則の不思議さを考えると理解しやすいかもしれません。
下の図を見て下さい。状況は次の通りです。
車Bが押されて、車Bのエネルギーが増えたとき、車Bは仕事をされたという
車Aが押して、車Aのエネルギーが減ったとき、車Aは仕事をしたという
自然だと思います。
一方で、作用反作用の法則を考えると、下の図のように、車Bが押して、車Aが押されたということもできます。この力に着目して仕事を考えると、上の言い方は
車Bが押して、車Bのエネルギーが増えたとき、車Bは負の仕事をしたという
車Aが押されて、車Aのエネルギーが減ったとき、車Aは負の仕事をされたという
と変わります(のちに見るように、力の向きと移動の向きが逆向きだと、仕事は負になります)。
ここで仕事の計算方法も紹介します。仕事の計算式は、仕事をW〔J〕、力の大きさをF〔N〕、移動距離をx〔m〕、力の向きと移動の向きとの間の角をθとすると、次のようになります。(仕事はWorkなので、あだ名はWと表します)。
W=Fxcosθ
このとき、物体が移動する向きに力を加えていると、間の角度θがゼロ度となり、cosθ=0、仕事の計算式は次のように簡単になります。
W=Fx
また、物体が移動する向きと力の向きが反対向きの場合には、θ=180°となり、仕事の式は次のようにマイナスを含みます。
W=Fxcos180°=-Fx
上で考えた負の仕事はこのように考えることもできるのです。
力と変位の間の角度が90度の場合には、cosθ=0となることから、仕事を求めるとゼロになるということです。例えば、斜面を滑り降りる物体にはたらく(斜面からの)垂直抗力は仕事をしません。垂直抗力の向きは斜面と垂直ですが、物体が動く方向は斜面と平行だからです。
なお、この方法は力と変位という二つのベクトルを掛け算しているというイメージです。ベクトル同士の足し算が、普通の(スカラーの)足し算と異なったように、ベクトル同士の掛け算も、普通の掛け算とは異なるのです。ベクトルの掛け算は大学に行ったら改めて学ぶことになると思います。
力学的エネルギー保存の法則 目次
3.力学における「仕事」と「エネルギー」の定義は?(⇐今ここ!)
5.1.運動エネルギーはどんな実験によって確かめられるのか?