【独習】ゼロから 一歩ずつ 物理の見方・考え方 Home

1.8.2 物体が1つのとき (2次元)(問題演習)

 水平面より30°傾いているなめらかな斜面上に質量$m$〔kg〕の物体をのせ,斜面下方から、斜面に沿って(図の矢印の向きに)$F$〔N〕の力を加えて静止させた。重力、垂直抗力の大きさを指で支える力の大きさFを用いて表しなさい。ただし、重力加速度の大きさを$g$〔m/s2〕とし、摩擦力は無視できるものとする。


<解説>

①着目する物体を決める

 まず、着目する物体を決めます。今回の問題では、物体が静止しているとあるので、物体にはたらく力のつりあいを考えます。着目する物体は「物体」です。

②着目している物体にはたらく力を見つける

 つづいて、この着目している物体「物体」にはたらく力を見つけます。力を見つける際には、「遠隔力」と「接触力」に分けて、それぞれ探します。本問では遠隔力は「重力」があります。また、「接触力」は、床と指に触れているので、それぞれから力を受けます。「床」などの面から受ける力は、面に対して垂直な「垂直抗力」と面に対して平行な「摩擦力」がありますが、今回は「摩擦力は無視できる」とありますので、無視しましょう。

③力を図示し、座標軸を定めて、それぞれの力の成分を求める

 図示すると次のようになります。重力を$\overrightarrow{W}$、垂直抗力を$\overrightarrow{N}$と名付けましょう。

 なお、「力を描け」と言われたときには、作用点がどこかを意識する必要がありますが、力を描く問題以外では、下の図のように、すべての力が物体の真ん中にはたらいているように描くことがあります。これは、力のつりあいの問題では、物体が回転したり、向きを変えることを考えていない(無視している)ためです。回転や向きの変化を考えるときには、力が物体のどこにはたらいているのかが大切になってきますが、詳しくは「剛体の運動」という単元で学びます。

 

 さらに、この図を見ながら、座標軸を定め、成分を求めます。今回は、図のように水平方向右向きに$x$軸、鉛直方向上向きに$y$軸という座標軸を定めましょう。座標軸の向きに、力を分解すると、それぞれの力の成分が見えてきます。このとき、垂直抗力$\overrightarrow{N}$と$y$軸の間の角度が30°、垂直抗力$\overrightarrow{N}$と$x$軸の間の角度が60°になることが幾何学的にわかるので、それを利用しています。

 すると重力 、垂直抗力 、指が押す力 の成分はそれぞれ次のように求まります。

( $\overrightarrow{F}$、$\overrightarrow{N}$、$\overrightarrow{W}$の大きさをそれぞれ、$F$、$N$、$W$ と表します。)

 

重力$\overrightarrow{W}$の$x$成分:$W_x=0$

重力$\overrightarrow{W}$の$y$成分:$W_y=-W$

垂直抗力$\overrightarrow{N}$の$x$成分:$N_x=-\frac{1}{2}N$

垂直抗力$\overrightarrow{N}$の$y$成分:$N_y=\frac{\sqrt{3}}{2}N$

指が押す力$\overrightarrow{F}$の$x$成分:$F_x=\frac{\sqrt{3}}{2}F$

指が押す力$\overrightarrow{F}$の$y$成分:$F_y=\frac{1}{2}F$



 

 

④式を立てる

 成分を用いて力のつりあいの式を立てます。$x$座標の方向、$y$座標の方向ごとに考えると次のようなつりあいの式が立てられます。

$x$方向:  $W_x+N_x+F_x=0+(-\frac{1}{2}N)+(+\frac{\sqrt{3}}{2}F)=0$・・・(i)

$y$方向:  $W_y+N_y+F_y=(-W)+(+\frac{\sqrt{3}}{2}N)+(+\frac{1}{2}F)=0$ ・・・(ii)

 

⑤式を解く 

この式(i), (ii)を連立して解くことで、それぞれの力の大きさは次のように表せます。

 $N=\sqrt{3}F$

 $W=2F$

 

 なお、座標の向きは、何度も言うように自分で決めて良いものです(自然には、決まった座標などありません)。

 今回の問題において、次のように斜面方向に$x$軸、それと垂直な方向に$y$軸という座標軸を定めたらどうなるのか、考えてみるのはとても意味のあることです。

 この座標の中でそれぞれの力の成分を求めると次のようになります。



重力$\overrightarrow{W}$の$x$成分:$W_x=-\frac{1}{2}W$

重力$\overrightarrow{W}$の$y$成分:$W_y=-\frac{\sqrt{3}}{2}W$

垂直抗力$\overrightarrow{N}$の$x$成分:$N_x=0$

垂直抗力$\overrightarrow{N}$の$y$成分:$N_y=N$

指が押す力$\overrightarrow{F}$の$x$成分:$F_x=F$

指が押す力$\overrightarrow{F}$の$y$成分:$F_y=0$

 

 ここから、$x$軸方向、$y$軸方向の式はそれぞれ次のようになります。

$x$方向:  $W_x+N_x+F_x=(-\frac{1}{2}W)+0+(+F)=0$・・・(i)

$y$方向:  $W_y+N_y+F_y=(-\frac{\sqrt{3}}{2}W)+(+N)+0=0$ ・・・(ii)

 

 この場合、先ほどの軸の定め方よりも少しだけ楽に見えるかもしれません。実は、座標の取り方は自由ですが、場合によっては、楽になる座標の取り方や大変になる取り方があります。どのように座標を定めると楽になりそうかは、問題を解き始めるときに、考えると良いと思います。このようなメタな思考(“問題を解く”だけではない “問題をいかに解くか”という思考)が物理の理解を深めます。

 

 なお、座標軸の向きが変わると、上式における符号が全て反転することになり、結局両辺に「-1」を掛けただけで同じ式になることも意識しておきましょう。くどいですが、座標の定め方は自由なのです。