【独習】ゼロから 一歩ずつ 物理の見方・考え方 Home

2.2 物体の運動をどう定義し、測り、式に表し、どう図示するのか?

位置、速度、加速度の定義

 

時間と時刻

 速度や加速度などの説明に入る前に、時間と時刻の違いについて触れておきます。似ているのですが、物理では異なる意味で使っています。具体的には、時刻はその瞬間、時間はある瞬間と別の瞬間の間の長さとして用いています。次の数直線を見て理解してください。

 時刻は数直線上の点の事です。しかし、時間は数直線上の2点のの距離の事です。どちらも単位は「秒(s)」ですし、あだ名は「time」からとった「t」ですのでわかりにくいです。必要になったときに、ここに戻ってきて確認しましょう。

 




   

 

位置の表し方

 「位置」という言葉の意味は、日常的に用いている「位置」と同じです。

 しかし、物理では位置を表すときに、座標軸を用いて表します。一直線上の運動でしたら1つの座標軸のみを用いて表現することができますし、2次元の運動でしたらx軸、y軸などの2つの座標軸を用いて表現します。なお、単位は「m」で表わします。

 

変位

 位置の変化のことを「変位」と言います。この「変位」はどちらの向きに、どれだけ変化したのかを表すベクトル量である点に注意してください。また、変位は最初と最後の位置の変化を表すベクトルであり、道のりではないので注意してください。

 例えば下の絵では、家から公園まで歩いたときの「変位」は、北西に423m(←ベクトルなので向きと大きさ)と答えることになります。なお、道のりはは600mほどです。混同しないようにしましょう。

 なお、変位のあだ名は「x」で、単位は「m」です。

 (あだ名とは、変位を表すときによく使われる文字のことです)

 

 

 

変位の定義式

 変位x〔m〕=移動後の位置〔m〕-移動前の位置〔m〕

※変化を聞かれたら「あと」―「まえ」

 

速度

 単位時間当たりの変位(位置の変化)のことを速度といいます。

 

 物理では、基本的に距離の単位には「m」、時間の単位には「秒(s)」を用いますので、速度の単位は「m/s」が多いです。

 「単位時間当たりの変位」とありますが、単位時間は1秒の事なので、この定義は「1秒あたりの変位」だと思ってしまいましょう。

 また、「単位時間当たりの変位」とありますが、変位はベクトル量なので、速度もベクトル量です。

 速度は英語で「velocity」なので、あだ名は「$v$」を用いることが多いです。なお、時刻ゼロ秒の速度の事を初速度と呼び、速度「$v$」にゼロ秒の「0」を添え字として付けた「$v_0$ 」で表すことも多いので合わせて覚えてしまいましょう。

 速さと速度の違いについて、疑問に思うこともあるかもしれませんが、「速さ」とは「度の大き」だと思うと分かりやすいです。大きさなので、「速度」の向きを無視したもので、スカラー量です。

 計算式は次の通りです。この式を、定義から導かれる式という気持ちを込めて、速さの定義式と呼びましょう。(覚えるべきは定義です。定義から定義式は自分で考えてみてください。)

 

定義式:

 速さv〔m/s〕=変位x〔m〕÷時間t〔s〕

 

例えば、先ほどの家から本屋さんに行く例において、家から本屋さんの角までに100秒、さらに本屋さんの角から公園までさらに100秒かかったとしたら、本屋さんの角までの速度は300m÷100s=3m/s、本屋さんから公園までの速度は同じく300m÷100s=3m/s、しかし、家から公園までの平均の速度は423m÷200s=2.15m/sとなります。ずっと3m/sの速さで歩いていたのに、家から公園までの平均の速度が2.15m/sとは気持ち悪いかもしれませんが、速度の定義にのっとって考えるとそのように計算されます。まずは、定義を意識しましょう。

 

速度の定義から定義式を導くには?

 「あめ玉が15個ある。3人で分けると一人当たり何個か?」と聞かれたとき、我々は「15(個)÷3(人)=5(個/人)」と計算します。「一人当たり」と聞かれたら、当たり前のように人数で割り算をするということをしているのです。速度を計算するときも同じです。

 

 速度は「単位時間当たりの変位(位置の変化)」なので、計算するときには「単位時間」で割り算をすれば良いのです。単位時間を1秒とするのであれば、秒数で割ればいいのです。

よって、「速さv〔m/s〕=変位x〔m〕÷時間t〔s〕」と分かります。

「○○当たりの」を計算するには「◯◯」で割り算する

 

 また、蛇足ながら、ここで単位のみに着目してみましょう。実は単位を覚えているだけでも、計算の方法はだいたい分かります。例えば速さの場合、速さの単位は〔m/s〕です。距離の単位〔m〕を時間の単位〔s〕で割ったものです。改めて速さの定義式を見てみると、距離を時間で割っています。つまり、例えば〔m/s〕という単位自身をみることで、「〔m〕で表した「距離」を〔s〕で表した「時間」で割ったものが速さなのですよ」と教えてくれているのです。

 等式では単位も必ず両辺で一致する

 

 

「単位時間当たりの」ってなに?

 「単位時間あたりの」と言われると分かりにくいかもしれませんので、例を用いて説明してみます。

 例えば、時速100kmという速さは「1時間当たり」100km進む速さということを言っていますし、秒速30万kmという速さは「1秒あたり」30万km進む速さであると言っています。このように、一口に速さと言ってもいろいろなあらわしかたをしていますが、 「1時間当たり」は1時間を基準として考えたものであり、「1秒あたり」は1秒を基準として考えたものです。この「1時間を基準として考えた」というのが、言いかえると 「単位時間を1時間とした」ということです。

 次の問題を通して、この考え方を理解してみましょう。

 

問:時速10kmは秒速何mでしょうか?

 上の考え方に基づくと、時速10kmは「1時間当たり10km移動する」速さということです。我々は単位をm/sに替えたいので、上の「1時間当たり10km移動する」を「秒」と「メートル」を用いて表せばよいのです。

 1時間は60分、1分は60秒なので、結局1時間=60分=60×60秒=3600秒です。

 1kmは1000mなので、10kmは10000mです。

 そのため、「1時間当たり10km移動する速さ」を言いかえると「3600秒の間に10000m移動する速さ」となります。よって(位置の変化を時間で割ればいいので)10000÷3600=2.77777・・・〔m/s〕となります。問題集でよく見る次の式は上の説明を式にしたものですので、理解してみてください。

 

 

 

加速度

 加速度は加速の度合いを表しています。イメージしにくい人が多いようなので、まずはイメージから考えてみます。

 「加速度は加速の度合い」であると述べました。「加速」というのは、「速さが増す」ということなので、加速度は「どのくらい速さが増しているか」を表していることになります。一方で、急に速くなる方が加速の度合いは大きいと感じるはずなので、加速度は時間にも関係しているはずです。

 例えば、信号待ちをしているバイクとトラックがあるとしましょう。信号が青になり、しばらくすると、どちらも時速60kmになります。しかし、バイクはあっという間に時速60kmまで加速する一方で、トラックはゆっくりと加速して、ようやく時速60kmになります。このような場合、バイクの方が「加速の度合い」、加速度が大きいと考えることでしょう。時速0kmから時速60kmへと変化するという同じ状況であっても、それにかかる時間が短いほど、加速度は大きいと考えるのです。

 そこで物理では、「単位時間当たりの速度の変化」のことを加速度と呼んでいます。

 前述のとおり、物理では単位時間として1秒を用いますので、上の定義を「1秒当たりの速度の変化」と読み替えて覚えましょう。(すると、加速度の定義式はどのようになるでしょうか?)

 なお、加速度は英語で「acceleration」と言いますので、あだ名は「a」です。単位は「m/s^2」です。(なぜこのような単位になるのでしょうか?定義式の右辺の単位から考えてみてください。)

 

加速度の定義式:

 加速度a〔m/s^2〕=速度vの変化〔m/s〕÷時間t〔s〕

 

 なお、変化した間の量を表すために「 (←デルタと読む)」を用いることがあります。例えば速度vの変化量を「 」と表し、時間、つまり時刻の変化量を「 」と表します。これを用いると上の定義式は次のように表すことができます。

 

加速度の定義式(文字を用いた表記):

 $a=\frac{\Delta v}{\Delta t}$

 

 単位時間当たりの速度の変化なので、速度の変化を時間で割っています。単位時間に秒を使うのであれば、速さの変化〔m/s〕を時間〔s〕で割ります。

 また、右辺の単位だけを見ると〔m/s〕÷〔s〕なので、〔$\frac{m/s}{s}$〕=〔\frac{m}{s^2}$〕=〔$m/s^2$〕となることから、加速度aの単位が〔$m/s^2$〕であると分かります(等式においては、必ず両辺の単位が一致するからです)。

 加速度の定義「単位時間当たりの速度の変化」だけを覚えていれば、計算の方法も思い出せるし、単位も思い出せるはずです。繰り返しになりますが、まずは定義をしっかりと覚えましょう。

 

 

加速度と速度の違い

 加速度と速度の違いが分かりにくいという人がたくさんいるかと思います。次のクイズを通して考えてみてください。

クイズ:

 街中の電車と新幹線、動き出すときに加速度が大きいのはどちらでしょうか?

 正解は、電車です。実感としては、動き出した時によろめいてしまう度合いが強いほど、加速度が大きいと言えます。電車は動き出すときによろめいてしまいますが、新幹線はいつ動き出したのか分からないくらい、静かに動き出します。新幹線の加速度は小さいのです。では、なぜ新幹線の方が、最高速度が大きいのでしょうか?

クイズの答え:

 次のグラフから説明できます。グラフは電車と新幹線の速さと時間の関係を表したグラフです。動き出した直後を見ると、電車の方が速いです。新幹線はゆっくり動き出すので、動き出した直後まだまだ遅いです。加速度が小さいと言えます。しかし、新幹線はずっと加速し続けます。加速の度合いは小さいけれど、ずっと加速していると、最高速度は大きくなるのです。新幹線のように加速度が小さくても、長い間加速し続ければ大きな速度を持つことができるのです。改めて、加速度の定義「単位時間当たりの速度の変化」であることを思い出すと、ある瞬間の速度と、加速度の大きさは無関係であることが分かると思います。

 



 なお、これは、加速度の定義式を変形してみてもわかります。

 $\Delta v=a \times t$

 

 このように、速度の変化は加速度aだけで決まるのではなく、加速している時間tにも依ることが分かります。その瞬間の速さは、加速度の大きさで決まるわけではありません。

 速さの変化が、加速度と、加速している時間によって決まるのです。この違いをイメージしておいてください。

 

 

 

変位、速度、加速度がベクトルであるとはどういうことか?

 ベクトルは、向きを考えないと足し算ができない量であると紹介しました。先に述べた通り、変位、速度、加速度も向きを持つベクトル量です。これらがベクトル量であるということを、次の例を用いて実感してください。

 

速度の例)

 A君は街中で、動く歩道を見つけました。0.5m/sの速さで(右向きに)動いています。A君はこの上を1.5m/sの速さで(左向きに)逆走しました。このとき、A君は1.5m/sの速さ、動く歩道は0.5m/sの速さで移動していますが、逆走するA君は結局1.0m/sの速さで(左向きに)移動することになるのです。歩道とA君の速さを(向きを考えずに)足すと0.5m/s+1.5m/s=2.0m/sとなり現実と異なることからも、この場合にはやはりA君と動く歩道の向きを考えなければいけないことが分かります。つまり、速度はベクトル量なのです。

 それゆえ、「速度は?」と問われたら向きも含めて答えるべきです。今回の例では「左向きに1.0m/sです。」と答えるべきです。(速さは向きを無視した「速度の大きさ」であるととらえましょう)

 

 

 

 

 

 

座標軸を用いた表現

 

力を学んだ時に、座標軸を用いてベクトルを表す方法を紹介しました。例えば足し算をするときに便利でした。物体の位置や速度、加速度も座標軸を用いて表すととても便利です。

例えば、先の動く歩道の例であれば、右向きを正としたとき、歩道が動く速度は「+0.5m/s」、人が歩く速度は「-1.5m/s」、最終的に人が移動する速度は「+0.5+(-1.5)=-1.0」となり、マイナスがついているので、(正の向きと反対向きの)負の向き、つまり左向きに1.0m/sであると計算できます。

 符号がつく計算は慣れるまでは大変かもしれませんが、慣れてしまえば圧倒的に楽になるので、ぜひ練習をして慣れてください。

 

 

座標の向きは右向きを正にしないといけないの?

 座標の向きに決まりはありませんし、ましてや覚えるものでもありません。

 上の例を、先ほどと逆向き、左向きを正として考えてみましょう。その場合には、歩道が動く速度は「-0.5m/s」(←今度は右向きはマイナスの向きです)、人が歩く速度は「1.5m/s」、最終的に人が移動する速度は「-0.5+1.5=+1.0」となり、プラスがついているので、正の向き、つまり左向きに1.0m/sであると計算できます。これは上の右向きを正として考えたときの結果と同じです(←当たり前です)。

 左右のどちらを正の向きにするかは、自分自身で決めるものです。正の向きを自分自身で決め、その状況設定の中で正しく符号をつけてあげれば、最後には必ず座標の向きによらず、計算によって同じ現象が得られます。



 次のトピックで扱うグラフ化の際にも、正の向きを決めてグラフ化します。

 

ベクトルの向きは符号で表す

図示の仕方

式を眺めていても実感は湧きにくいです。少しでも物体の運動をイメージしやすいように、物理学ではできるだけ可視化します。図やグラフをたくさん使うのです。物体の運動でも、時々刻々変化する位置xや速度v、加速度aを、グラフにして表します。

 

x-tグラフ 時刻tと位置xの関係を表すグラフ

v-tグラフ 時刻tと速度vの関係を表すグラフ

a-tグラフ 時刻tと加速度aの関係を表すグラフ

 

特に大切なのはv-tグラフです。v-tグラフが分かれば、実は各時刻での位置も加速度もわかってしまうのです。

 

簡単な具体例を用いてv-tグラフからx-tグラフやa-tグラフが求められることを実感してみましょう。

 

例)

一定の速度5m/sで運動している次のグラフの場合を考えてみます。

 時刻3sでの位置は、速さが一定であることから5m/s×3s=15mと求められます。また、同様にして、時刻5sでの位置は5m/s×5s=25mと求められます(ちなみに、これはグラフとx軸で囲まれる面積を計算する式と全く一緒です)。

 具体的な時刻ではなく、時刻をt〔s〕として位置を求めても、同様に5〔m/s〕×t〔s〕=5t〔m〕と求められます(ちなみに、これもグラフの面積を求める計算式と一緒です)。

 ここからx-tグラフは次のようになると納得できます。

 また、速度は変化していない、つまり加速も減速もしていないので、加速度はどの時刻でも(時刻3sでも5sでも)ゼロであることが分かります(ちなみに、こちらは時刻3sや時刻5sにおけるグラフの傾きと一緒です)。ここからa-tグラフは次のようになることが納得できます。

 上の例から、x-tグラフ、v-tグラフ、a-tグラフの関係についてさらに考えてみます。

 先の例の中で、変位を求める計算式が「v-tグラフとx軸で囲まれる面積を求める計算式」と全く一緒であることや、加速度を求める計算式が「グラフの傾きを求める計算式」と全く一緒であることを述べました。実は、これらの計算式の一致は、速度が一定の場合でなくても、どのようなときにでも成り立ちます。

 つまり、一般に次のことが言えます。

 ・v-tグラフの面積(v-tグラフとx軸で囲まれる部分の面積)を求めると変位が分かる

 ・v-tグラフの傾きを求めると、加速度が分かる

 このように、どんなv-tグラフであっても、各時刻の位置や加速度が導けるのです。(実際には、v-tグラフの傾きや面積が具体的に計算できるとは限りません。)

 


 ちなみに、実は上図に示したように、加速度のグラフの面積から速度も分かりますし、変位のグラフの傾きから速度も分かります。上図のように、x-tグラフ、v-tグラフ、a-tグラフを描いたとき、それらは互いに面積を求めると左のグラフの情報が得られ、傾きを求めると右のグラフの情報が得られるという関係にあります。

 

グラフの面積はタテ×ヨコ、グラフの傾きはタテ÷ヨコ

 ここで、さらに、一般化させましょう。

 上で見た通り、v-tグラフでは面積が変位、傾きが加速度になりました。これは、面積を求めると、「y軸が表す速さ×x軸が表す時間」の答え、つまり距離を求めることになるためであり、また、傾きを求めると、「y軸が表す速さ÷x軸が表す時間」の答え、つまり加速度を求めることになるためです。

 実は、他のグラフでも面積を求めると「y軸が表す量×x軸が表す量」を求めることになりますし、傾きを求めると「y軸が表す量×÷x軸が表す量」を求めることになります。

 グラフの面積はタテ×ヨコ、グラフの傾きはタテ÷ヨコと覚えておきましょう。

 グラフの面積はタテ×ヨコ、グラフの傾きはタテ÷ヨコ

 

微分積分って便利なの?

 微分積分という言葉を聞いたことがあるでしょうか?高校2年生ころから数学で学ぶ概念ですが、実は物理では非常にたくさん(こっそりと)出てきます。

 上の図のように、面積を求める操作を積分、傾きを求める操作を微分であると今は思っておいてください。正確な定義ではありませんが、物理においては、十分です。先ほどグラフで見た関係を言い換えると、次のように言うことができます。

 

a-tグラフの面積を求めると速度が分かる ⇒ 加速度を積分すると速度が分かる。

v-tグラフの面積を求めると変位が分かる ⇒ 速度を積分すると変位が分かる。

x-tグラフの傾きを求めると速度が分かる ⇒ 変位を微分すると速度が分かる。

v-tグラフの傾きを求めると加速度が分かる ⇒ 速度を積分すると加速度が分かる。

 

 v-tグラフの面積や傾きを用いて変位や加速度を求めることに対して便利そうだと思えた人であれば、きっと微分積分の便利さを想像することができるのではないでしょうか。ぜひ数学での授業を楽しみにしていてください。もしくは自分で学んでみましょう。