1.3 ベクトルである力を、どう定義し、測り、式に表し、図示すべきか?
ここでは、力の定義(言葉での表し方)、測り方、式での表し方、図示の仕方などを学びましょう。
教科書的な説明が続きますが、主観を排し、客観的な議論をするためには、認識を合わせるためにきちんと説明しておきます。きちんと認識を合わせた上で、その上に精緻な物理学の体系を作っていきましょう。
力の定義
① 物体を変形させるはたらきをもつもの。
①’ 物体を変形させまいとするはたらきをもつもの
②運動の状態(=運動の向きや速さ)を変化させるはたらきをもつもの。
②’ 運動の状態を変化させまいとするはたらきをもつもの
この力の定義は、教科書には必ず書いてあるものですが、これを見てもあまり実感は湧かないかもしれません。実感も湧かないですし、この定義を覚えていても、今後、役に立つことはあまりありません。なぜこのような分かりにくい定義になっているのでしょうか?物理を一通り学んだあと、ぜひもう一度この定義に戻ってきてみてください。そして、なぜこのように定義せざるを得ないのかということを考えてみてください。
力の大きさの測定方法
力の大きさは、N(読み方はニュートン)という単位を用いて表現します。100gの物体が地球に引かれる力の大きさが約1Nです。
ばねばかりと呼ばれるものや、ニュートンメータと呼ばれるものを用いて測定することができます。
式での表し方
以前、2人が荷物を持つ場合を例に、力を合わせるということを考えましたが、今後、それを式で表現したい状況が出てきます。そのような時には、「この力を$\overrightarrow{F}$とする」などのように、1つ1つの力に名前を付けて表現することがあります。これは、赤いリンゴと青いリンゴがあるときに、「赤いリンゴの数を$a$、青いリンゴの数を$b$とする」のとおなじようなことです。しかし、この際、力がベクトルであることを示すために、文字の上に矢印を書いて、「 $\overrightarrow{F}$」などと表現します。
力を合わせる先ほどの例(下図)であれば、例えば、赤い力をそれぞれ$\overrightarrow{F_1}$、 $\vec{F_2}$、青で示した重力を$\overrightarrow{F_{重力}}$ 、緑で示した$\overrightarrow{F_1}$、 $\overrightarrow{F_2}$の合力を$\overrightarrow{F_{合力}}$ などと名付け、さらにその上で、「$\overrightarrow{F_1}$、 $\overrightarrow{F_2}$を合わせたものが $\overrightarrow{F_{合力}}$です」ということを、$\overrightarrow{F_1}+\overrightarrow{F_2}=\overrightarrow{F_{合力}}$のように足し算の記号を用いて表します。これは「赤いリンゴ$a$個と青いリンゴ$b$個を足したら$c$個です」ということを、$a+b=c$と表すのと同じです。違いは力がベクトルであることを示すために、文字の上に矢印を描くということだけです。
なお、リンゴの数を表す文字$a$や$b$, $c$を$x$や$y$などの別の文字で表しても良いのと同様、ベクトルに名前を付けるときも、どのような文字を使っても構いません(力は英語でForceなので、力を表すときには$F$を用いてあだ名をつけることが多いです)。
また、力がたくさんある場合には、例えば$\overrightarrow{F}$の右下に小さく添え字や説明をつけ、$\overrightarrow{F_1}$や$\overrightarrow{F_1}$、$\overrightarrow{F_{合力}}$ のように表現することもあります。
また、少し複雑ですが、ベクトル$\vec{F}$の大きさを絶対値の記号を用いて$|\vec{F}|$と表現したり、簡単に$F$と表現することもあります。ベクトルを表す文字が、ベクトルを示す矢印なしに出てきた場合には、そのベクトルの大きさを表していると考えてください。
図示の仕方
力を図に描くときは矢印で描きます。前述のとおり、力はベクトルであるため、足し算をするにも矢印で足すからです。このとき、図は次の3つの要素(力の3要素)が分かるように描きます。
・作用点:物体に対して力を及ぼす点がどこか?
・作用線:力の向きはどちらか?
・力の大きさ:力の大きさはどのくらいか?
※同じ原因の力が物体の各点にはたらく場合には、それらをまとめて、
中心の1点にはたらいているように表す(例 重力)。
重力は物体の重心から鉛直下向きに描く。
※図示する場合には、「1Nの力を1cmで表す」などと、あらかじめ決めておくと、
図示した力の大きさを具体的に示すことができます。
図示の仕方 その2(マス目や座標軸を用いた表現)
力を図として描けば、矢印の向きよって力の向きが示されますが、下図のように座標軸を描いて、その上に力を図示することもあります。表現方法の1つです。
座標軸を用いると、力を「上向きに2マス分、右向きに1マス分の力です。」と表現することもできます。そして、その大きさは、三平方の定理から求めることもできます。
とても便利ですので、今後、座標軸を用いて考えることが常になります。
また、(この単元で扱う多くの場合のように)一次元のみを考える場合には、向きは右か左、もしくは上か下のように2通りしかないので、下図のように座標軸を用いて考えることがあります。一次元の問題を座標軸を用いて考えると、力の向きと大きさを「$+50$N」や「$-20$N」のように符号と数で表すことができるためとても便利です。そして何よりも、このように表した一直線上の力同士であれば、力を合成するときに「$(-20)+(+50)=(+30)$」のように、今まで慣れ親しんだ足し算によって合力を求めることができるのです。
このように、表し方は様々なものがありますが、どれも便利さゆえに使われているので、ぜひ便利さを実感してみてください。
力と力のつりあいについて 目次
3.ベクトルである力を、どう定義し、測り、式に表し、図示すべきか? (⇐今ここ!)
6.1.合力の求め方① 図形を用いた方法(平行四辺形の法則)
7.力のつりあい
7.1.力のつりあいとは?
7.2.力のつりあいの式とは?
8.1.物体が1つのとき(問題演習)