1.5 それぞれの種類のエネルギーどうやって計算するの?の導出
冒頭にも述べたようにエネルギー保存則は、人が決めたものではありません。自然がそのような性質を持っているということを人間が発見したものです。そのため、まずは、どのようにして発見したのかという説明をしたいと思います。
教科書を見ると、エネルギーの定義は「仕事をする能力」とあります。その物体がどのくらいの仕事をすることができるのかというのが、その物体が持っているエネルギーです。そのため、エネルギーの単位も「J」です。
この定義を用いて、先に紹介したそれぞれのエネルギーの計算方法を導出しましょう。
カロリーとジュールの関係は?
水1gを1度温めるのに必要なエネルギーを1カロリーと表します。これは、エネルギーの量を表す別の単位です。1カロリーは約4.2Jです。同じ量を異なる単位で表すという点では、1.6kmが約1マイルです というのと似ています。
物理ではカロリーという単位は用いずに、ジュールを用います。水1gを1度温めるためのエネルギーは1カロリ-ですが、それを物理では4.2Jと換算して表します。
水を温めるためのエネルギーと、例えば高いところにある物体が持っているエネルギー(位置エネルギー)が同じ単位で表されるというのは不思議な感じがしませんか?同じ単位で表すということは、水を温めるためのエネルギーと、位置エネルギーを変換することができるということです。例えば4.2Jの位置エネルギーを用いることで、1gの水を1度あげることができるということです。本当にできるのでしょうか?高いところにある物体が水の温度を上げるとは考えにくいかもしれません。
実はジュールという単位の由来になった科学者ジュールは、物体を落下させる力を用いて羽根車を回し、それによって水の温度が上昇するということを確認し、エネルギーの換算値を求めたのです。それが1カロリー=4.2Jという換算式です。
そして、エネルギーの変換効率が100%であれば、水1gを1度温めるエネルギーが4.2Jの位置エネルギーと等価であることを知ったのです。(興味ある人は「ジュール 仕事当量」で検索してみてください)
1.5.1 運動エネルギーはどんな実験によって確かめられるのか?
運動エネルギーとは、動いている物体が持っているエネルギーのことです。このエネルギーの計算方法を導出してみましょう。そのために、まずは、運動エネルギーが何に依存するか、つまり、何が増えると運動エネルギーが増えるのかを考えてみましょう。
例えば、机の上を動いている力学台車が前方に置いた荷物を押す状況を考え、運動エネルギーを増加させるために、つまり、荷物をより遠くまで押させるために、何ができるかを考えてみましょう(エネルギー=仕事をする能力なので、荷物をより長く、遠くまで押すことができるということは大きなエネルギーを持つということだからです)。
荷物をより遠くまで押させるためには、次の2つの方法が考えられるでしょう。台車の質量を大きくするということと、台車の速度を大きくすることです。そこで、台車の質量や台車の速さと運動エネルギーの関係を実験的に確認してみましょう。
実験1 金属球の質量$m$と金属球が木片を動かす距離$l$の関係を調べる。
実験デザイン
疑問:
金属球の質量$m$と鉄球が木片を動かす距離$l$の関係は?
変数:
独立変数(変えるもの) :金属球の質量$m$
従属変数(測定するもの) :金属球が木片を動かす距離$l$
制御変数(一定にするもの):金属球の速さ$v$
方法:
台車をある速さ$v$で木片に衝突させ、木片が移動した距離$l$を測る。
実験結果
金属球の質量$m $ と金属球が木片を動かす距離$l$ が比例関係にあることが分かります。
$l\propto m $
実験2 金属球の速さ$v$ と金属球が木片を動かす距離$l$ の関係を調べる。
実験デザイン
疑問:
金属球の速さ$v$ と金属球が荷物を動かす距離$l$ の関係は?
変数:
独立変数(変えるもの) :金属球の速さ$v$
従属変数(測定するもの) :金属球が木片を動かす距離$l$
制御変数(一定にするもの):金属球の質量$m$
方法:
台車をある速さ$v$ で木片に衝突させ、木片が移動した距離$l$ を測る。
実験結果
台車の速さ$v$ と台車が木片を動かす距離$l$ が次のような関係になっていることが分かります。
2次関数でしょうか?それとも他の関係性でしょうか?
関係が明らかではないので、もう少し結果をプロセスして、関係を明らかにする必要がありそうです。そのため、まず、2次関数の関係になっているかを確認するために速さ$v$の2乗($v^2$)と木片が動いた距離$l$ でグラフを作ってみます。(イメージとしては、 $v^2$を$X$などの別の文字で置き替え、 $X$と$l$でグラフを作るというイメージです。実験解析では良くやるので頭の片隅に入れておきましょう。)
するとどうでしょう?次のグラフのように直線になることが分かります。これより、 $l$は$v^2$に比例することが分かります。つまり、
$l\propto v^2$
実験1と実験2のまとめ
木片が動いた距離$l$ は、物体がした仕事の量に比例します。また、そもそも物体が持っているエネルギーとは、物体がもっている「仕事をする能力」のことなので、木片が動いた距離 は物体のエネルギーと比例するはずです。
これを踏まえて、実験結果を見てみると、 $l \propto m $かつ$l\propto v^2$より、動いている物体が持っているエネルギー$K$ は$K\propto mv^2$ となることが分かります(今回の二つの実験から分かるのはここまでです)。
実は、他の実験や理論的に考えた結果等も合わせると、動いている物体がもつ運動エネルギー$K$ は$K=\frac{1}{2}mv^2$ となることが分かっています。
運動エネルギー K=\frac{1}{2}mv^2$
これは覚えておくべき式です。運動方程式からも導くことができますが、自然の法則のように「自然がこうなっている」ことを人類が発見したものなので、まずは、これを受け入れてください。
1.5.2 重力による位置エネルギーはどんな実験によって確かめられるのか?
重力による位置エネルギーとは、高いところにある物体が持っているエネルギーのことです。まずは、重力による位置エネルギーが何に依存するか、つまり、何が増えると重力による位置エネルギーが増えるのかを考えてみましょう。
例えば、鉄の塊を杭の先端に落下させて、地面に杭を刺すという状況を考えてみましょう(杭を少し動かす、少し刺すために必要な力は、深さによらず同じであると想定しています。正確ではないですが。)。より深く杭をさすためには、鉄塊をどうしたらよいでしょうか?
杭をより深く刺すためには、次の2つの方法が考えられるでしょう。鉄塊の質量を大きくするということと、鉄塊をより高いところから落とすということです。そこで、鉄塊の質量 や鉄塊を落とす高さ と位置エネルギー の関係を実験的に確認してみましょう。
実験1 鉄塊の質量と杭が刺さる深さの関係を調べる。
実験デザイン
疑問:
鉄球の質量$m $ とティッシュペーパーが沈む距離$l$ の関係は?
変数:
独立変数(変えるもの) :鉄球の質量$m$
従属変数(測定するもの) :ティッシュペーパーが沈む距離$l$
制御変数(一定にするもの):始めの鉄球の高さ$h$
方法:
右図のような実験を、鉄球の質量を変えて行う。
実験結果
鉄球の質量$m $ とティッシュペーパーが沈む距離$l$ が比例関係にあることが分かります。
$l \propto m $
実験2 鉄塊の始めの高さと杭が刺さる深さの関係を調べる。
実験デザイン
疑問:
鉄球の始めの高さ$h$ とティッシュペーパーが沈む距離$l$ の関係は?
変数:
独立変数(変えるもの) :始めの鉄球の高さ$h$
従属変数(測定するもの) :ティッシュペーパーが沈む距離$l$
制御変数(一定にするもの):鉄球の質量$m $
方法:
実験1と同じ実験を、鉄球の始めの高さを変えて行う。
実験結果
鉄球の始めの高さ$h$ とティッシュペーパーが沈む距離$l$ が比例関係にあることが分かります。
$l \propto h $
実験1と実験2のまとめ
ティッシュペーパーが沈んだ距離$l$ は、物体がした仕事の量に比例します。また、そもそも物体が持っているエネルギーとは、物体がもっている「仕事をする能力」のことなので、ティッシュペーパーが沈んだ距離$l$ は物体のエネルギーと比例するはずです。
これを踏まえて、実験結果を見てみると、 $l \propto m $かつ$l \propto h$より、高いところにある物体が持っている重力による位置エネルギー$U$ は$U \propto mh $ となることが分かります(今回の二つの実験から分かるのはここまでです)。
実は、他の実験や理論的に考えた結果等も合わせると、高いところにある物体がもつ重力による位置エネルギー$U$ は$U=mgh$ となることが分かっています。
重力による位置エネルギー $U=mgh$
こちらも覚えておくべき式です。先ほどと同様、「自然がこうなっている」ことを、まずは、受け入れてください。
1.5.3 エネルギーの計算方法を理論からの導出するには?
ここでは4つのことを理論的に検証します。
まずは、運動エネルギーK=1/2mv2が、された仕事の分だけ変化することを運動方程式から導きます。そして、その後、実験的に考えた運動エネルギーと重力による位置エネルギー、(上では考えていないですが)弾性力による位置エネルギーについて、理論的に導きます。
検証1 物体が仕事をされると、された仕事の分だけ運動エネルギーが変化する
検証2 速さvで動く質量mの物体の運動エネルギーは確かに、K=1/2mv2で表せる。
検証3 重力による位置エネルギーUは確かにU=mghと表せる。
検証4 弾性力による位置エネルギーUはU=1/2kx2と表せる。
エネルギーを考える際にも、(今まで力学で学んだように)着目する物体を明確にすることはとても大切です。どの物体が持っているエネルギーなのかを意識しながら読み進めてください。
検証1 物体が仕事をされると、された仕事の分だけ運動エネルギーが変化する
運動エネルギーがK=1/2mv2と表せることを前提として用い、「物体がされた仕事」が確かに「運動エネルギーの変化」と一致することを示します。
次のような状況を考えましょう。速さv0で動いている台車に、大きさFの一定の力を、台車が距離xを動く間加え続け、結果として速さがvになったという状況です。力を加える前(下図の左の台車)と、距離x動いた後(下図の右の台車)の二つの瞬間を比べます。
このとき、台車が距離x動く間の運動方程式は次の通りです。
ma=F
力が一定なので、加速度も一定a
加速度が一定であれば、結果として次の公式を使うことができます。
v2-v02=2ax
これに①を変形したa=F/mを代入
v2-v02=2F/mx
さらに式変形をすると
1/2mv2-1/2mv02=Fx
つまり、運動エネルギーがK=1/2mv2と表せることを前提とすると、
距離x動いた後の運動エネルギーと最初の運動エネルギーの差が、確かに仕事Fxになることが分かります。「物体が仕事をされると、された仕事の分だけ、運動エネルギーが変化する」を示すことができました。
式にすると、
1/2mv2-1/2mv02=Fx
です。なお、変化を表すときには、「あと」-「まえ」で計算することを覚えておきましょう。
検証その2 速さvで動く質量mの物体の運動エネルギーは確かに、K=1/2mv^2で表せる。
先ほどの実験の状況を改めて考えてみましょう。
鉄球が持っていたエネルギーは木片に仕事をすることで減少し、エネルギーがゼロとなったところで鉄球は静止します。
先ほどと似た方法を用いて、鉄球が持っていたエネルギーを運動方程式から理論的に導きましょう。
まず、舞台設定として、図の右側を正の向きとします。
鉄球の質量をm、初速度をv0、鉄球が木片を押す一定の力を+F(正の向きなので「+」をつけています)、木片が静止するまでに動いた距離をxとします。すると逆に、鉄球が木片から受ける力は、作用反作用の法則から-Fと表せることが分かります。
つまり、この状況は、初速度v0の鉄球が、一定の力-Fを受けて静止するというように見ることができます。式で表してみましょう。
初速度v0の物体が一定の力を受けて静止したので、次の式が成り立ちます。
v2-v02=2ax
物体の加速度は、運動方程式より-a=-F/mです(右向きが正なのでマイナスです)。
これを代入すると、
v02=2F/mx
式変形すると、1/2mv02=Fxとなります。
つまり、初速v0のとき、木片にした仕事はFxであり、これが運動している鉄球が持っていた「仕事をする能力」つまり、運動エネルギーであるということです。
以上より、速さvで動く質量mの物体の運動エネルギーは確かに、K=1/2mv^2で表せることが検証できました。
検証その3 重力による位置エネルギーUは確かにU=mghと表せる。
高いところにある物体は、必ず重力によって仕事をされます。そして、地面においては、その分、運動エネルギーが増加します。必ず運動エネルギーを得られるので、その分のエネルギーは予約されているようなものだと思いましょう。この予約分のエネルギーを位置エネルギーと呼んでいます。
これを踏まえて、先ほど検証した「物体が仕事をされると、された仕事の分だけ、運動エネルギーが変化する」を用いて考えましょう。
次のように考えることができます。
高さhのところにあった質量mの物体は重力㎎の力を受けながら高さh移動する。つまり、される仕事はmg×hであり、落下後の運動エネルギーはmghである。よって、高さhのところにある質量mの物体が持つ重力による位置エネルギーはmghである。
なお、各高さにおける力の大きさは常にmgなので、高さと力の関係は次の図のようになります。いつでも「グラフの面積はタテ×ヨコ」です。この図では、タテが力、ヨコが距離なので、グラフの面積は物体がされた仕事、つまりエネルギーを表します。
検証その4 弾性力による位置エネルギーUはU=1/2kx2と表せる。
一端を固定したバネの他端に物体をとりつけて引っ張ったときの、物体が持っている弾性力による位置エネルギーを考えます。
ばねは、延ばしたり縮めたりすると必ず引っ張られたり押されたりするので、重力による位置エネルギーを考えたように、今回も弾性力による予約されたエネルギーを考えます(それが弾性力による位置エネルギーです。)
先ほどまでと同じように、このときも、距離xまで引っ張った状況から、ばねが自然の長さ(自然長と言います)に戻るまでにされた仕事を考えることで、物体が持っているエネルギーの大きさを考えましょう。
ここで、難しいのは、ばねにつけられた物体が、ばねから受ける力は、バネの伸びによって変わってきてしまうということです。中学校で学んだように、バネの伸びと力の大きさは比例関係にあります。比例係数をkとすると、F=kxとなります。この関係はフックの法則と呼ばれており、また、この比例定数kはバネの伸びにくさを表し、ばね定数と呼ばれています(←伸びにくいほど、kは大きい。伸びにくいほど、同じ距離x伸ばすのに必要な力が大きくなる)。グラフにすると次のようになります。力の大きさがバネの伸びによって時々刻々変わってしまうので、物体がされた仕事を考えることはとても難しいです。
しかし、我々は「グラフの面積はタテ×ヨコ」であることを知っています。グラフの面積を求めることができれば、その量はグラフの縦軸と横軸を掛けた物理量になるということです。今の場合は、グラフの縦軸が力の大きさ、横軸が距離なので、面積を求めることで力の大きさ×距離、つまり仕事を求めることができるのです。これが分かっていればとっても簡単です。
上のグラフを見て、距離xのところから自然長(x=0)まで動かすときの面積が、物体がバネから受ける仕事となるのです。計算すると、1/2×x×kx=1/2kx2です。
以上より、ばね定数kのばねが自然長からx伸びているとき、つながれた物体が持っている弾性力による位置エネルギーUはU=1/2kx2と表されます。
以上で理論的な導出は終わりです。実験と理論、両方から導出してみたので、両方から眺め、自然がそのようになっていることを実感してみてください。
力学的エネルギー保存の法則 目次
5.それぞれの種類のエネルギーどうやって計算するの?の導出(⇐今ここ!)
5.1.運動エネルギーはどんな実験によって確かめられるのか?