4.熱機関を理解するための一歩目
前ページにあげた熱機関の具体例を用いて、熱効率を求めるために必要な手順をまとめてみましょう。ここでは前ページの①各変化によって気体の状態、②気体がした(正味の)仕事Wについて詳しく見てみます。
①各状態変化における気体の状態の変化の計算の仕方
各状態の変化によって気体の状態がどのように変化しているのか、つまり、例えば$p_0$、$V_0$、$T_0$、$n$が与えられたとして、$p'$や$V'$、$T'$などはどのように計算できるのかを考えてみましょう。
状態変化が分かりやすい場合には、ボイル・シャルルの法則を用いることで、気体の変数を計算することができます。具体的には次のとおりです。
例)区間㋒ 状態A→状態B(定積変化)
この区間の変化は体積一定であるので、ボイル・シャルルの法則より
$p_0 V_0 / T_0 = p' V_0 / T'$つまり$p_0 / T_0 = p' / T'$
例)区間㋘ 状態D→状態A (定圧変化)
この区間の変化は圧力一定であるので、ボイル・シャルルの法則より
$p_0 V' / T''' = p_0 V_0 / T_0 $もしくは(シャルルの法則より)$V' / T''' = V_0 / T_0$
なお、熱力学の分野では、変数がたくさん出てきて、まとめるのがとっても大変です。上の表の情報をまとめるには、 $pV$グラフを使うととても便利です。 $pV$グラフにおいては、各状態は圧力と体積を用いてグラフの一点として表すことができますし、さらにその点の近くに温度を記載しておけば、物質量が一定である場合には状態のすべての変数をグラフ上に表現できることになります。具体的には、前述の表の情報を次のような グラフにまとめることができます。
※温度の高低は$pV$グラフの原点からの距離を用いて簡単に比較することができる。
②気体がした(正味の)仕事
圧力が一定の場合、気体が外に対してする仕事$W$は、ピストンが移動する距離を$\Delta{}x$、ピストンにはたらく力を$F$とすると、$W=F\times\Delta x$です。
ピストンの面積を$S$とすると、ピストンにかかる圧力$p$は$p=F/S$、気体の体積変化$\Delta V$は$\Delta V=\Delta x \times S$ですので、前述の仕事$W$は$W=F \times \Delta x=pS \times \Delta V/S=p \Delta V$と書き換えることができます。これは、$pV$グラフと$V$軸の間の面積の計算と一致します。これより、(圧力が一定でない場合も含め、一般に)$pV$グラフにおけるグラフと$V$軸の間の面積が、気体がした仕事であると考えられます。具体的には次のとおりです。
B→C (定圧変化)
$W_{out}=p' \Delta V = p' \times (V' - V)$
D→A (定圧変化)
$W_{in}=p_0 \Delta V = p_0 \times (V_0 - V')$
よって正味の仕事 は
$W=W_{out} - W_{in} = p' \times (V'-V) - p_0 \times (V_0 - V')$
このように仕事を表現する場合においても$pV$グラフは有効です。
※$Q_{in}=-Q_{out}$、$W_{in}=-W_{out}$なので注意
$pV$グラフの面積はタテ×ヨコ
$pV$グラフの面積は気体がした/された仕事を表す
①加熱時に与えられた熱量
のちに見るように、吸熱量$Q_{in}$は気体の比熱(モル比熱という、後述)が分かっていれば温度の変化から計算することが可能です。
もしくは、気体が持っているエネルギー(内部エネルギー$U$という、後述)の変化$\Delta U$と気体がした仕事$W_{out}$が分かれば、気体におけるエネルギー保存測(熱力学第一法則という、後述)の関係から計算することもできます。
これらに関しては、気体の比熱の計算方法、内部エネルギー、熱力学第一法則といった内容を学ぶ必要があるため、次ページで改めてまとめましょう。
実は、次の章では、熱力学の背後にある理論から、内部エネルギーや比熱などについて確認します。この理論は、気体を無数の分子の運動による力学的な現象であるというモデルを用いて説明しています。このモデル化により、温度や気圧といった、経験則として得られた巨視的な物理量に関しても、より深い理解を得ることができるのです。
熱力学 目次
4.熱機関を理解するための一歩目(⇐今ここ!)