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 2.4.1 1次元のとき(問題演習)

 ものを落としたり、投げ上げたりして、ある時刻の物体の位置を答えるような問題がたくさん出題されます。教科書を見ると「座標の正の向きを上向きにとる」とか、「下向きにとる」とかが、決まり事のように書いてあるためか、座標の向きの設定方法に決まりがあるかのように感じている方もいるように見受けられます。しかし、座標の向きは自由です。自分で決め、常にそれに従っていれば、必ず正しい答えにたどり着きます。座標の向きは自由です。無駄に覚えようとするのは絶対にやめましょう。

 必要なのはv-tグラフに対する理解、もしくは3つの公式に対する理解のみです。

 

例題1)

高さ19.6mの高さから、物体を自由落下させる。なお物体を離した瞬間を時刻0秒とする。

(1) 時刻1秒における物体の速さはいくらか?

(2) 物体が地面につくまでの時間はいくらか?

(3) 物体が地面についたときの速さはいくらか?

 

解答:

 座標の取り方が自由であるということを示すために、上向きを正とした場合と、下向きを正とした場合の2通り考えてみます。さらに、グラフを利用した解き方と公式を利用した解き方に分けてそれぞれ解説します。

 

 まずは、上向きを正として考えてみましょう。

 

方法1上向きを正とし、グラフを用いて考える

 速度はだんだんと下向きに速くなっていくので、負の向きに大きくなっていくと言えます。また、重力加速度の向きも下向き、つまり負の向きなので、重力加速度は、9.8にマイナスをつけて「-9.8 m/s2」と表せます。

グラフにすると右のようになります。

 

 グラフを描ければ、問題を解くことは難しくありません。

(1) 時刻1秒における物体の速さはいくらか?

 グラフから1秒の時の速度を求めると、(傾きが-9.8なので) -9.8 m/sであるとわかります。なお、マイナスがついているので、向きは負の向き、つまり下向きということが分かります。よって、速度は下向きに9.8m/sであるとわかります。

 (速さは?と聞かれているので、速度の大きさである9.8m/sを答えればよいでしょう。)

 

(2) 物体が地面につくまでの時間はいくらか?

 地面までは19.8mなので、時刻0秒からの変位が19.6になる時刻を求めればよいことになります。変位はv-tグラフの面積です。

求める時刻をt1とおいて計算式を立てましょう。

t1における速さは9.8 tより、三角形の面積は です。これが19.6になるので、式は

$t_1 \times (9.8 t_1) \times \frac{1}{2}=19.6$

です。

ここからt1を求めると、t1=2と分かります。つまり、地面につくまでの時間は2秒です。

 

 (3) 物体が地面についたときの速さはいくらか?

(2)より地面につくまでの時間が2秒であるとわかっているので、速度は-19.6m/sであることが分かります。よって求める速さは19.6m/sです。

 

方法2下向きを正とし、グラフを用いて考える

 今度は下向きを正として考えます。先ほどの解説と何が異なるのか注意してみましょう。速度はだんだんと下向きに速くなっていくので、正の向きに大きくなっていくと言えます。また、重力加速度の向きも下向き、つまり正の向きなので、重力加速度は「+9.8 m/s2」と表せます。グラフにすると右のようになります。

 

 グラフを描ければ、問題を解くことは難しくありません。

(1) 時刻1秒における物体の速さはいくらか?

 グラフから1秒の時の速度を求めると、(傾きが+9.8なので) +9.8 m/sであるとわかります。なお、プラスなので、向きは正の向き、つまり下向きということが分かります。

 よって、速度は下向きに9.8m/sであるとわかります。

 (速さは?と聞かれているので、速度の大きさである9.8m/sを答えればよいでしょう。)

 

(2) 物体が地面につくまでの時間はいくらか?

 地面までは19.8mなので、時刻0秒からの変位が19.6になる時刻を求めればよいことになります。変位はv-tグラフの面積です。

 求める時刻をt1とおいて計算式を立てましょう。

 t1における速さは9.8tより、三角形の面積は です。これが19.6になるので、式は

$t_1 \times (9.8 t_1) \times \frac{1}{2}=19.6$

です。

 ここからt1を求めると、t1=2と分かります。つまり、地面につくまでの時間は2秒です。

 

 (3) 物体が地面についたときの速さはいくらか?

(2)より地面につくまでの時間が2秒であるとわかっているので、速度は19.6m/sであることが分かります。よって求める速さは19.6m/sです。

 先ほどの上向きを正とした場合と比較してみると、設定した座標によって、現象の向き(重力加速度の向きや速度の向き)を表す符号が異なりますが、計算した結果から得られる現象の向きは(当たり前ですが)同じになります。

 このように座標の向きは、符号の扱いさえ気を付ければ自由に設定してよいことが分かります。

 

方法3下向きを正とし、公式を用いて考える

使える公式は次の3つです。

(i)  $v=v_0+at$(速度 と時間 の関係式)

(ii) $x=v_0 t + \frac{1}{2} at^2$(位置 と時間 の関係式)

(iii) $v^2-v_0^2=2ax$(位置 と速度 の関係式)

 

 ここでは下向きを正として考えます。すると、重力加速度が正の向きに9.8なので「+9.8m/s2」と表せます。上の公式においてaで表された加速度は、自由落下の場合には「+9.8m/s2」ということです。

 また、自由落下させるということは、初速度v0が0m/sであることを意味しています。

よって、公式を用いる際には、a=9.8、v0=0を代入することになります。

 

 さて、具体的に解いていきましょう。

(1) 時刻1秒における物体の速さはいくらか?

 この問題では、時刻1秒のときの速さが聞かれています。ですので、速度と時間の関係を表す公式①を用いましょう。(←このように何が分かっていて何を聞かれているのかを意識して使う公式を選びましょう。)

すでに分かっているa=9.8、v0=0 と、問題で聞かれているt=1を公式①に代入し、求める速さvが分かります。

$v=v_0+at = 0+9.8 \times 1 =9.8$

 

(2) 物体が地面につくまでの時間はいくらか?

 この問題では、地面につくまで、つまり変位が19.6mになるまでの時間が聞かれています。ですので、変位と時間の関係を表す公式②を用いましょう。

すでに分かっているa=9.8、v0=0 と、問題で聞かれているx=19.6を公式②に代入し、求める時刻tが分かります。

$19.6=v_0 t + \frac{1}{2} a t^2 = 0 \times t + \frac{1}{2} \times 9.8 \times t^2$

tについて解くと、t2=4、t=±2秒という答えが得られます。

ここでは、マイナスは不適なので2秒と答えることができます。

 

(3) 物体が地面についたときの速さはいくらか?

 この問題では、地面に着いたとき、つまり変位が19.6mになった時の速さが聞かれています。ですので、変位と速度の関係を表す公式③を用いましょう。

 すでに分かっているa=9.8、v0=0 と、問題で聞かれているx=19.6を公式③に代入し、求める速度vが分かります。

$v^2-v_0^2 = 2ax$

$v^2-0^2=2 \times 9.8 \times 19.6$

 

 vについて解くと、v =±19.6秒という答えが得られます。

 ここでは、マイナスは不適なので19.6m/sと答えることができます。

 

 

 さらに、問3は次のように考えることもできます。

 問2の答えより、地面に着くのは2秒であるとわかっているので、問3の問題を

「地面に着くのは」ではなく「時刻2秒では」と読み替えるのです。

 すると、時刻が2秒と分かっていて、その時の速度を求める問題であると見ることができるので、速度と時間の関係を表す公式①を用いることができるとわかります。

 

 すでに分かっている 、$a=9.8$、$v_0$ と、問題で聞かれているt=1を公式①に代入し、求める速さvが分かります。ここからは省略しますが、答えはもちろん別の解き方でやったときと同じ19.6m/sとなります。