【独習】ゼロから 一歩ずつ 物理の見方・考え方 Home

2 力積と運動量の関係は?

 力積と運動量の関係は次の通りです。これは、この単元を理解するためにとても重要なので、覚えてください。まずはこれを導出してみましょう。

 「物体の運動量の変化は、物体が受けた力積に等しい。」

 

 

2.1      力積と運動量の関係を運動方程式から導いてみる

 ここでは、一直線上を運動している物体が一定の力$\overrightarrow{F}$を秒間受け、速度が$\overrightarrow{v}$から$\overrightarrow{v'}$になったという状況を考えてみます。この場合、次のように簡単に示すことができます。

 スタートは運動方程式です。力学は皆、運動方程式から始めることができます。

$$m\overrightarrow{a}=\overrightarrow{F}$$

 力積と運動量の関係を導きたいので、式変形をして右辺を力積$\overrightarrow{F}\Delta t$にすることを考えます。両辺に$\Delta t$を掛けてあげれば良いですね。すると次の式を得ます。

$$m\overrightarrow{a} \Delta t=\overrightarrow{F} \Delta t$$

 ここで、加速度$\overrightarrow{a}$の定義を思い出しましょう。加速度$\overrightarrow{a}$の定義は「単位時間当たりの速度の変化」です。それゆえ、定義式は次のように表せました。

$$\overrightarrow{a} = \frac{\overrightarrow{v'}-\overrightarrow{v}}{\Delta t}$$

これを上の式の$\overrightarrow{a} $に代入してみましょう。すると、次の式が得られます。

$$ m\frac{\overrightarrow{v'}-\overrightarrow{v}}{\Delta t}=\overrightarrow{F} \Delta t$$

よって

$$m(\overrightarrow{v'}-\overrightarrow{v})=\overrightarrow{F} \Delta t$$

$$m\overrightarrow{v'}-m\overrightarrow{v})=\overrightarrow{F} \Delta t$$

 この式をよく見ると、左辺は(後の運動量)-(前の運動量)、すなわち運動量の変化、そして右辺が力積であることが分かります。以上より、「物体の運動量の変化は、物体が受けた力積に等しい」が言えるのです。

 

 

2.2 「物体の運動量の変化は、物体が受けた力積に等しい」とはどういうこと?

 この関係を具体的な例を用いて考えてみましょう。例えば、テニスボールをラケットで図のように打ったとしましょう。ボールの質量と速さで計算した運動量が右図の赤と青だとしたら、その変化は緑で表されます。このとき、この緑がラケットがボールに与えた力積であるということです。

「物体の運動量の変化は、物体が受けた力積に等しい」

 これを、矢印を用いて式のように表すと次のようになります。

 ⇒  の運動量の運動量力積 

 ⇒ 

 

 

 左辺がベクトルの引き算なので、どのように計算すべきか悩むかもしれません。しかし、ベクトルのマイナス1倍は向きを反対にするだけ、ということを利用すると、次のように計算できます。

 1-3=1+(-3)と同様、マイナスを括弧の中に入れると、

  ⇒  

  

 ベクトルのマイナス1倍なので、向きを反対にすると、

  ⇒  

 

 ここまでくれば、普通のベクトルの合成ですので、

  ⇒   

 

 確かに、左辺を計算すると、右辺の力積になることが納得できると思います。

 

 

 ベクトルの引き算に慣れてきたら、次のように、引くベクトルの先端から引かれるベクトルの先端へのベクトルが引き算の答えになると考えましょう。

 これは、スカラーの引き算を考えたときに、数直線上において、引く数から引かれる数までの変化が求める引き算の答えになることと似ています。例えば、4-1は引く数「1」から引かれる数「4」までの変化「+3」になるということです。ベクトルでもスカラーでも引き算は、引くものから引かれるものへの変化なのです。

(ベクトルの引き算については、他にも応用例があるので、後ほど練習しましょう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 力積、運動量とは?

 まずは力積を考えてみましょう。力積は英語でImpulseというので、あだ名は$I$です。ベクトル量なので、$\overrightarrow{I}$と表すことが多いです。

力積$\overrightarrow{I}$の定義は、物体が受けた力$\overrightarrow{F}$と力を受けている時間$\Delta t$との積です。ベクトル$\overrightarrow{F}$とスカラー$\Delta t$の積なのでベクトル量になるのです。 

$\overrightarrow{I}=\overrightarrow{F}\times \Delta t$

 例えば、台車に対して一定の力$F$を$\Delta t$秒間加えたとき(右図)、力積$I$は、力の向きに、大きさ$I=F\Delta t$であると言えます(ベクトル量であることを意識するために、力と向きを表しました)。なお、これは右図における斜線部の面積になります。

 ※一直線上の力のみを考えているので、ベクトルではなく、スカラーとして表しています

 また、自由落下したボールが床にぶつかった時に受ける力のように、力が一定でない場合(右図)、その力積の大きさは、やはりグラフの面積で表されます(毎回出てきているように、グラフの面積はタテ×ヨコです)。向きは垂直抗力の向きです。

※グラフの面積はタテ(=力の大きさ)×ヨコ(=時間)を表す

 

 続いて運動量を考えます。運動量のあだ名は$p$です(なぜ$p$が使われるのかは諸説あるようです)。こちらもベクトル量なので、$\overrightarrow{p}$と表すことが多いです。

 運動量$\overrightarrow{p}$の定義は、物体の質量$m$と速度$\overrightarrow{v}$との積です。ベクトル$\overrightarrow{v}$とスカラー$m$の積なのでベクトル量になるのです。 

  $\overrightarrow{p}=m\times \overrightarrow{v}$

 

 例えば、質量$1$kgの台車が$2$m/sで動いていたら、この台車の運動量$p$は大きさ$p=1\times 2 =2 $〔kg m/s〕、向きは台車の速度の向きであると言えます。

 

 ここでは、「なぜこのような量を考えるのか?」は置いておきましょう。「便利だから」で、ひとまず先に進みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

保存量2 運動量保存の法則

 運動量保存則 目次

  はじめに(⇐今ここ!)

  1.力積、運動量とは?

  2.力積と運動量の関係は?

    2.1.力積と運動量の関係を運動方程式から導いてみる

    2.2.「物体の運動量の変化は、物体が受けた力積に等しい」とはどういうこと?

    コラム 「運動量」と「エネルギー」は兄弟?その1

    コラム 「運動量」と「エネルギー」は兄弟?その2

  3.運動量保存則とは何か?なぜ成り立つのか?

    3.1.運動量保存則はなぜ成り立つのか?

    3.2.運動量保存則はどのようなときに成り立つのか?

 

 本単元では、「力積」や「運動量」と呼ばれる量を扱います。分かりにくい量ですが、まずは定義を見てみましょう。これらは次のように定義される量です。

 力積$\overrightarrow{I}$Ns = kg m/s:物体が受けた力と力を受けている時間との積

   $\overrightarrow{I}=\overrightarrow{F} \times \Delta t$  

 運動量$\overrightarrow{p}$kg m/s:物体の質量と速度との積

   $\overrightarrow{p}=m \times \overrightarrow{v}$  

 

 なかなかイメージが付きにくいかもしれません。イメージが付きにくい量だと、計算式も頭に入りにくいかもしれません。なぜこのようなイメージの湧かない量を考えるのでしょうか?それはこれが、自然が持つとても汎用的・根本的な法則だからです。そして、もう1つには「便利だから」です。

 今まで物理で学習してきた内容を思い出すと、例えば運動エネルギー$1/2mv^2$や弾性エネルギー$1/2 kx^2$などといった、一見よく分からない量を学んできました。個々のエネルギーを計算することには意味が見いだせなくとも、「エネルギーが保存する」という事実(←もしくは自然の性質)はとても便利だったと思います。

 実は、のちに見るように、運動量も「保存量」の1つです。「エネルギー保存則」と同様、「運動量保存則」もとても便利なものなのです。

 この単元では、「運動量」と「エネルギー」をなるべく対比させながら学習を進めていきましょう。「運動量」の便利さと共に、「エネルギー」との関係にも着目してください。「運動量」と「エネルギー」が兄弟のように見えてきたとき、「運動量」の単元がきっと得意になっていると思います。

 

準備(復習)

 本単元では2つの物体の衝突を扱うことがあります。2つの物体が出てくるときには、必ず作用反作用の法則が顔を出します。

作用反作用の法則

 二つの物体A、Bがあり、

 物体Bを物体Aが押しているとき、必ず、

 物体Bが物体Aを同じ大きさで反対向きに押している

 

 両手の手のひらを胸の前で合わせ、右手で左手を押すと、左手も右手を押しているというものです。これは、静止している場合に限りません。二つの物体の運動の様子には関係ありません。

 例えば、台車Aが静止している台車Bにぶつかるときも、作用反作用の法則は成り立ちます。つまり、台車具体的には、理科実験機器を扱う会社のナリカさんが動画で紹介しているので見てみて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

1.7 エネルギー保存則を理解すると分かること

1.7.1  演習問題 1物体しかないとき

 図のように床と斜面がつながれている。床のAB間はあらいが、他はなめらかである。床の一部分にばね定数$k$ のばねをつけ、一端に質量$m $ の物体を押し当てて、ばねを 縮めた。AB間の物体と床との間の動摩擦係数を $\mu' $、距離を$S$ 、重力加速度の大きさを$g$ とする。

  


             

 

(1)ばねを開放したとき、物体が点Aに達する直前の速さ$v_A$ を求めよ。

(2)物体は点Bを通過後、斜面を上がり、最高点Cに達した。Cの床からの高さ$h$ を求めよ。

 

解答

 エネルギー保存則の便利なところは、ある瞬間とある瞬間でエネルギーの和が変化しないことを利用できるところです。時々刻々変化する力の大きさなどは無視して、二つの瞬間において力学的エネルギーを考えます。

(1)

 ばねを開放する前のエネルギーと、物体Aに達する直前のエネルギーが等しいことを利用します。分からない量があっても気にせずに未知数として式に放り込んでみましょう。その未知数を、エネルギー保存則という関係式を用いて求めるのです。

 

 本問では、求めたいAの直前の速さを未知数$v$として、それぞれの瞬間における各種のエネルギーを計算すると次のようになります。

 

ばねを開放する前のエネルギー:

 運動エネルギー:0

 重力による位置エネルギー:0

 弾性力による位置エネルギー:$\frac{1}{2}kx^2$

 

Aの直前のエネルギー:

 運動エネルギー: $\frac{1}{2}mv^2$(←求めたい速度を未知数 $v$として)

 重力による位置エネルギー:0

 弾性力による位置エネルギー:0

 

 それぞれの瞬間の力学的エネルギーは保存している、変化していないはずなので、「ばねを開放する前」と「Aの直前」の力学的エネルギーが等しいという式を立てます。次のようになるはずです。

$\frac{1}{2}kx^2=\frac{1}{2}mv^2$

 

 これを解いて、$v=\sqrt{\frac{k}{m}}x $ と得られます。

 

(2)

 本問では、点Aを通過後、摩擦がある床の上を通ります。そのため、摩擦が物体に対してした仕事の分だけ、力学的エネルギーが熱エネルギーに変換されてしまいます。

 その変換分を考慮して、エネルギー保存則を立てれば、問題を解くことができます。

 

 まず、摩擦が物体に対してした仕事を求めましょう。

 摩擦力の大きさ$F$ は、 $F=N\mu'$より$F=mg\mu'$ と求まります。AB間の距離$S$を掛けて、摩擦力がした仕事は$F=mg\mu' S$ と求まります。

 

 続いて、最高点Cに達したときの力学的エネルギーを、未知数$h$ を用いて考えます。

 最高点Cにおけるエネルギー:

  運動エネルギー:0 (←最高点では速度がゼロになるから)

  重力による位置エネルギー:$mgh$

  弾性力による位置エネルギー:0

 

 「ばねを開放する前」と「最高点C」の力学的エネルギーの関係を考えると、「ばねを開放する前」のエネルギーから、摩擦がした仕事の分引いたら、「最高点C」でのエネルギーになるということが分かります。これを式にすると、「ばねを解放する前のエネルギー」-「摩擦力がした仕事」=「最高点Cにおけるエネルギー」です。先ほど求めたそれぞれの値を代入すれば次の関係式になります。

$\frac{1}{2}kx^2-mg\mu'S =mgh$

 

$h$について解くと、 $h=\frac{kl^2}{2gh}-\mu'S$が得られます。

 なお、以前述べたように、摩擦力が仕事をした場合、物体の力学的エネルギーは減少しますが、その減少分は主に摩擦によって発生した熱エネルギーに変換されたと考えましょう。

 

 

1.7.2  演習問題2物体あるとき

 図のように軽くて伸び縮みしない糸の一端を天井につるす。この糸は動滑車を経てさらに天井につけた定滑車を経由して他端に質量mのおもりQをつるす。動滑車には質量がM(>2m)の物体Pをつるし、全体が静止した状態(これを「始めの状態」と呼ぶ)で静かに放すと、Pが下降して、Qが上昇した。Qが「始めの状態」からhだけ上昇した瞬間を「後の状態」と呼ぶ。滑車の質量、滑車と軸の間の摩擦を無視し、重力加速度の大きさをgとして以下の問いに答えよ。

 

  • 糸の張力の大きさをTとして「始めの状態」から「あとの状態」に移る間に糸の張力がQに対してした仕事(WQ)を求めよ。
  • 糸の張力の大きさをTとして「始めの状態」から「あとの状態」に移る間に糸の張力がP(と動滑車)に対してした仕事(WP)を求めよ。

(3) WQWP=0であることを示せ。

(4) 力学的エネルギー保存則を用いて、「あとの状態」におけるPとQ

の速さvを求めよ。

 

解答

(1) 

 糸の張力は鉛直上方向にはたらいています。そして、Qはその方向に動いています。 $W=Fx cos\theta$を考えると、張力がした仕事は正の値となることが分かります。

 糸の張力がQに対してした仕事を$W_Q$ とすると、

        $W_Q=Th$

となります。

 

(2)

 Pを支える2本の糸の張力はそれぞれ鉛直上方向にはたらいており、それぞれの大きさはTです(1本の糸であれば張力はどこでも同じ)。そして、Pはその方向と反対の向きに動いています。 $W=Fxcos\theta$を考えると、張力がした仕事は負の値となることが分かります。

 糸の張力がPに対してした仕事を$W_P$ とすると、

        $W_P=-Th$

となります。

 

(3)

 (1), (2)より$W_Q+W_P=Th+(-Th)=0

 

(4)

 物体P、物体Qをそれぞれ考えたとき、それぞれの物体の力学的エネルギーは保存しません(重力以外の張力が仕事をしてしまうから)。しかし、(3)で見たように、Pが張力にされる仕事とQが張力にされる仕事を足すとゼロになることから、2つの物体を系として見たとき、力学的エネルギーの合計は保存します。

 Pの速さを$v_P$ 、Qの速さを$v_Q$ として、力学的エネルギーの式を立てると次のようになります。

 $mg(-\frac{1}{2} h)+\frac{1}{2}mv_P^2+mg(-\frac{1}{2} h)+\frac{1}{2}mv_Q^2=0$・・・①

 

 また、 $v_P$と$v_Q$ の関係を考えると、次の式が成り立つことが分かります。

 $v_P=\frac{1}{2}v_Q$ ・・・②

 

 これらを解くことで、$v_P$ 、$v_Q$ がそれぞれ次のように求まります。

 $v_P=\sqrt{\frac{1}{5} gh}$

    $v_Q=\sqrt{\frac{4}{5} gh}$

 

 この問題は、系の力学的エネルギー保存則と考えた問題です。このように適切に系を考えることで、力学的エネルギー保存則は成り立つようになることがあります。

 

 

 今後、「物理」の範囲で、別の保存量を扱います。それは運動量という保存量です。運動量保存の法則という法則が出てきますので、楽しみにしておいてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.6 力学的エネルギー保存則はどんなときに成り立つの?

 力学的エネルギーとは、運動エネルギーと位置エネルギーの和のことを言います。

 ある物体のエネルギーを考えたとき、その物体が持つエネルギーが熱や光などのエネルギーに変わったりしなければ、物体の力学的エネルギーは保存します。これを力学的エネルギー保存則と言います。

 たいそうな名前ですが、大したことは言っていません。エネルギー保存則が分かっていれば、当たり前のことです。エネルギーの種類が変わっていなければ、その量は変わりません。

 

 ここでは、力学的エネルギー保存則が成り立つとき、成り立たないときの例を見てみましょう。

 

1.6.1.1  力学的エネルギー保存則が成り立つとき

例①物体が落下するとき

 物体が落下する状況を考えましょう。このとき、どの瞬間を見ても落下している物体が持つ力学的エネルギーが一定である、保存していることを確認します。

 これは次のように確認することができます。

 最初、ある高さhにあるとしましょう。その物体が落下するとき、x落下すると、位置エネルギーmgx減ってしまいます。しかし、一方で、物体はmg×xの仕事をされるので、運動エネルギーがmgx増えることになります。よって、見方を変えると、減った位置エネルギーが、実は運動エネルギーに変換されたとみなすことができるのです。

 また、地上から物体が投げ上げられた場合も同じことが言えます。例えば地上から高さxまで上がった瞬間を考えると、地上から高さxまでの間に、mg×xの仕事をされるので、運動エネルギーがmgx減少します。一方で、高さxまで上がっているので位置エネルギーmgx増加します。投げ上げられた場合には、運動エネルギーが位置エネルギーに変換されているのです。

 

例②斜面を滑り降りる物体

 斜度30度の滑らかな斜面を滑り降りる物体の運動を考えます。物体は重力と垂直抗力のみを受けています。それぞれの力がする仕事を考えましょう。

 まず、垂直抗力は仕事をしません(以前見た通り、垂直抗力の向きと物体が動く向きは直行するからです)。続いて、重力を図のように分解すると、重力のうち、斜面と垂直な成分は仕事をしません(この成分の向きと物体が動く向きは直行するからです)。唯一仕事をするのは重力の、斜面と平行な成分です。この大きさはmgxsinθになります。

 さて、斜面上を(斜面の向きに)x移動したときのことを考えてみましょう。このとき、位置エネルギーは、図よりmgsinθ減少します。一方で、物体は静止した状態から力の大きさmgsinθを受けてx移動していることになるので、速さはv2-v02=2axa=gsinθ

 よって、v2=2gsinθx。この時の運動エネルギーは1/2mv2=1/2m2gsinθx=mgxsinθとなり、位置エネルギーの減少分と一致します。

 以上より、やはりこの場合も力学的エネルギーが一定となる、保存するのです。

 

 ここで、少しだけ見方を変えてみましょう。物体に仕事をしているものに着目します。例①も例②も、物体に仕事をしているのは重力だけでした。重力がする仕事は、必ず位置エネルギーの変化と一致します(そのように位置エネルギーを考えているからです)。そのために、先の例では、力学的エネルギーは保存したのです。

 つまり、物体に対して重力だけが仕事をする場合には、力学的エネルギーが保存するのです。そして実は、重力だけではなく、弾性力が仕事をする場合にも力学的エネルギーは保存します。

 

例③振り子運動

 上で見た通り、物体に対して重力だけが仕事をする場合には、力学的エネルギーが保存するということが分かったので、ここでは、振り子のおもりにはたらく力がする仕事をそれぞれ考えてみます。

 振り子の場合、物体にはたらく力は重力と糸の張力のみです(物体に触れているのは糸しかないので、接触力は糸のみです)。そして、糸の張力の向きと、物体が動く向きは常に直角です。糸は常に円の中心向きに物体を引っ張り、物体は常に円の接線の向きに動くからです。つまり、力の向きと動く向きの間の角度が90度なので、仕事(W=Fxcosθ)を考えると、常にゼロになるのです。よって物体は仕事をされません。

 以上より、振り子運動の場合にも力学的エネルギーは保存することが分かります。

 

 

 

1.6.1.2  力学的エネルギー保存則が成り立たないとき

例①物体に(重力や弾性力以外の)何らかの力が仕事をするとき

 下の図のように、滑らかな斜面上にある物体を手で押した状況を考えましょう。このとき、物体は斜面に沿って移動しています。

 ひとつひとつの力がする仕事を考えてみます。垂直抗力は移動の方向と垂直なので、仕事をしません。重力(の斜面と平行な成分)は負の仕事をしますが、その分の仕事はすべて位置エネルギーの増加分になるので、物体のエネルギーを変えることはありません。力Fは物体に対して仕事をしています。この仕事の分は、物体の力学的エネルギーが増加します。手の力によって斜面の上の方にもっていっているので、位置エネルギーという力学的エネルギーが増加していることが明らかです。重力や弾性力以外の力が仕事をすると、その分だけ力学的エネルギーが増加し、力学的エネルギーは保存しません。

 なお、手のエネルギー(もしくは人のエネルギー)まで考えると、エネルギーは保存します。人は物体に仕事をした分だけエネルギーを消費し、疲れているはずだからです。人のエネルギーの元は食べ物のエネルギーなので、ここでは化学エネルギーが力学的エネルギーに変換されたと考えても良いでしょう。着目している物体だけでなく、押した人まで考え、かつ化学エネルギーといった力学的エネルギー以外のエネルギーまで考えると、必ずエネルギー保存は成り立ちますが、ここで見た通り、着目している物体に対して力学的エネルギー保存則が成り立つかどうかは、状況によって決まります。重力や弾性力以外の力が物体に対して仕事をすると、物体の力学的エネルギーは保存しません。



 

 

例②摩擦力があるとき

 摩擦力があるとき、物体が摩擦力によって仕事をされると、物体の力学的エネルギーが(摩擦によってされた仕事の分だけ)減少します。くどいですが、重力や弾性力以外の力が仕事をした場合には力学的エネルギーは保存しないのです。

 しかしやはり、この状況も(力学的エネルギーは保存していませんが)エネルギー全体で見ると保存しています。実は、摩擦がした仕事は、主に摩擦熱というエネルギーに変換され、空間に伝わっていくのです。そのため、力学的エネルギーだけでなく、熱エネルギーなども考えたエネルギー全体で考えると、一定になっています。

 

 

1.6.1.3  力学的エネルギー保存則が系に対して成り立つとき

 今まで学んだことを少しだけ拡張し、複数の物体を考えてみます。

 例えば、右図のような状況では、物体Aや物体Bを、それぞれ個別に考えると力学的エネルギー保存則は成り立ちません。重力の他に張力が仕事をしているからです。

 しかし、物体Bが張力にされた仕事と、物体Aが張力にされた仕事は大きさが等しく符号が逆になるため、二つの物体を合わせて考えた場合、力学的エネルギーは保存します。物体Bが糸に対してした仕事(つまり物体Bの力学的エネルギーの減少分)と物体Aが糸からされた仕事(つまり物体Aの力学的エネルギーの増加分)が一致するからです。このように、着目する物体を適切にとることで、力学的エネルギーが保存することがあります。なお、着目する物体の集まりのことを「系」と言います。先の例では、「物体Aと物体Bを系として考えるとき、系の力学的エネルギーは保存する」などということがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.5 それぞれの種類のエネルギーどうやって計算するの?の導出

 冒頭にも述べたようにエネルギー保存則は、人が決めたものではありません。自然がそのような性質を持っているということを人間が発見したものです。そのため、まずは、どのようにして発見したのかという説明をしたいと思います。

 教科書を見ると、エネルギーの定義は「仕事をする能力」とあります。その物体がどのくらいの仕事をすることができるのかというのが、その物体が持っているエネルギーです。そのため、エネルギーの単位も「J」です。

 

 この定義を用いて、先に紹介したそれぞれのエネルギーの計算方法を導出しましょう。

 

 

カロリーとジュールの関係は?

 水1gを1度温めるのに必要なエネルギーを1カロリーと表します。これは、エネルギーの量を表す別の単位です。1カロリーは約4.2Jです。同じ量を異なる単位で表すという点では、1.6kmが約1マイルです というのと似ています。

 物理ではカロリーという単位は用いずに、ジュールを用います。水1gを1度温めるためのエネルギーは1カロリ-ですが、それを物理では4.2Jと換算して表します。

 水を温めるためのエネルギーと、例えば高いところにある物体が持っているエネルギー(位置エネルギー)が同じ単位で表されるというのは不思議な感じがしませんか?同じ単位で表すということは、水を温めるためのエネルギーと、位置エネルギーを変換することができるということです。例えば4.2Jの位置エネルギーを用いることで、1gの水を1度あげることができるということです。本当にできるのでしょうか?高いところにある物体が水の温度を上げるとは考えにくいかもしれません。

 実はジュールという単位の由来になった科学者ジュールは、物体を落下させる力を用いて羽根車を回し、それによって水の温度が上昇するということを確認し、エネルギーの換算値を求めたのです。それが1カロリー=4.2Jという換算式です。

 そして、エネルギーの変換効率が100%であれば、水1gを1度温めるエネルギーが4.2Jの位置エネルギーと等価であることを知ったのです。(興味ある人は「ジュール 仕事当量」で検索してみてください)

 

1.5.1  運動エネルギーはどんな実験によって確かめられるのか?

 運動エネルギーとは、動いている物体が持っているエネルギーのことです。このエネルギーの計算方法を導出してみましょう。そのために、まずは、運動エネルギーが何に依存するか、つまり、何が増えると運動エネルギーが増えるのかを考えてみましょう。

 例えば、机の上を動いている力学台車が前方に置いた荷物を押す状況を考え、運動エネルギーを増加させるために、つまり、荷物をより遠くまで押させるために、何ができるかを考えてみましょう(エネルギー=仕事をする能力なので、荷物をより長く、遠くまで押すことができるということは大きなエネルギーを持つということだからです)。

 荷物をより遠くまで押させるためには、次の2つの方法が考えられるでしょう。台車の質量を大きくするということと、台車の速度を大きくすることです。そこで、台車の質量や台車の速さと運動エネルギーの関係を実験的に確認してみましょう。

 

実験1 金属球の質量$m$と金属球が木片を動かす距離$l$の関係を調べる。

実験デザイン

 疑問:

  金属球の質量$m$と鉄球が木片を動かす距離$l$の関係は?

 変数:

  独立変数(変えるもの)  :金属球の質量$m$

  従属変数(測定するもの) :金属球が木片を動かす距離$l$

  制御変数(一定にするもの):金属球の速さ$v$

 方法:

  台車をある速さ$v$で木片に衝突させ、木片が移動した距離$l$を測る。

 

  

実験結果

 金属球の質量$m $ と金属球が木片を動かす距離$l$ が比例関係にあることが分かります。

   $l\propto m $

 

実験2 金属球の速さ$v$ と金属球が木片を動かす距離$l$ の関係を調べる。

実験デザイン

 疑問:

  金属球の速さ$v$ と金属球が荷物を動かす距離$l$ の関係は?

 変数:

  独立変数(変えるもの)  :金属球の速さ$v$

  従属変数(測定するもの) :金属球が木片を動かす距離$l$

  制御変数(一定にするもの):金属球の質量$m$

 方法:

  台車をある速さ$v$ で木片に衝突させ、木片が移動した距離$l$ を測る。

 

実験結果

 台車の速さ$v$ と台車が木片を動かす距離$l$ が次のような関係になっていることが分かります。

2次関数でしょうか?それとも他の関係性でしょうか?

  

 関係が明らかではないので、もう少し結果をプロセスして、関係を明らかにする必要がありそうです。そのため、まず、2次関数の関係になっているかを確認するために速さ$v$の2乗($v^2$)と木片が動いた距離$l$ でグラフを作ってみます。(イメージとしては、 $v^2$を$X$などの別の文字で置き替え、 $X$と$l$でグラフを作るというイメージです。実験解析では良くやるので頭の片隅に入れておきましょう。)

  

 するとどうでしょう?次のグラフのように直線になることが分かります。これより、 $l$は$v^2$に比例することが分かります。つまり、

   $l\propto v^2$

 

   

 

実験1と実験2のまとめ

木片が動いた距離$l$ は、物体がした仕事の量に比例します。また、そもそも物体が持っているエネルギーとは、物体がもっている「仕事をする能力」のことなので、木片が動いた距離 は物体のエネルギーと比例するはずです。

 これを踏まえて、実験結果を見てみると、 $l \propto m $かつ$l\propto v^2$より、動いている物体が持っているエネルギー$K$ は$K\propto mv^2$ となることが分かります(今回の二つの実験から分かるのはここまでです)。

 実は、他の実験や理論的に考えた結果等も合わせると、動いている物体がもつ運動エネルギー$K$ は$K=\frac{1}{2}mv^2$ となることが分かっています。

運動エネルギー K=\frac{1}{2}mv^2$

 これは覚えておくべき式です。運動方程式からも導くことができますが、自然の法則のように「自然がこうなっている」ことを人類が発見したものなので、まずは、これを受け入れてください。

 

 

1.5.2  重力による位置エネルギーはどんな実験によって確かめられるのか?

 重力による位置エネルギーとは、高いところにある物体が持っているエネルギーのことです。まずは、重力による位置エネルギーが何に依存するか、つまり、何が増えると重力による位置エネルギーが増えるのかを考えてみましょう。

 例えば、鉄の塊を杭の先端に落下させて、地面に杭を刺すという状況を考えてみましょう(杭を少し動かす、少し刺すために必要な力は、深さによらず同じであると想定しています。正確ではないですが。)。より深く杭をさすためには、鉄塊をどうしたらよいでしょうか?

 杭をより深く刺すためには、次の2つの方法が考えられるでしょう。鉄塊の質量を大きくするということと、鉄塊をより高いところから落とすということです。そこで、鉄塊の質量 や鉄塊を落とす高さ と位置エネルギー の関係を実験的に確認してみましょう。

 

 

実験1 鉄塊の質量と杭が刺さる深さの関係を調べる。

実験デザイン

 疑問:

  鉄球の質量$m $ とティッシュペーパーが沈む距離$l$ の関係は?

 変数:

  独立変数(変えるもの)  :鉄球の質量$m$

  従属変数(測定するもの) :ティッシュペーパーが沈む距離$l$

  制御変数(一定にするもの):始めの鉄球の高さ$h$

 方法:

  右図のような実験を、鉄球の質量を変えて行う。

  

 

実験結果

 鉄球の質量$m $ とティッシュペーパーが沈む距離$l$ が比例関係にあることが分かります。

   $l \propto m $

 

 

実験2 鉄塊の始めの高さと杭が刺さる深さの関係を調べる。

実験デザイン

 疑問:

  鉄球の始めの高さ$h$ とティッシュペーパーが沈む距離$l$ の関係は?

 変数:

  独立変数(変えるもの)  :始めの鉄球の高さ$h$

  従属変数(測定するもの) :ティッシュペーパーが沈む距離$l$

  制御変数(一定にするもの):鉄球の質量$m $

 方法:

  実験1と同じ実験を、鉄球の始めの高さを変えて行う。

 

実験結果

 鉄球の始めの高さ$h$ とティッシュペーパーが沈む距離$l$ が比例関係にあることが分かります。

   $l \propto h $

 

実験1と実験2のまとめ

 ティッシュペーパーが沈んだ距離$l$ は、物体がした仕事の量に比例します。また、そもそも物体が持っているエネルギーとは、物体がもっている「仕事をする能力」のことなので、ティッシュペーパーが沈んだ距離$l$ は物体のエネルギーと比例するはずです。

 これを踏まえて、実験結果を見てみると、 $l \propto m $かつ$l \propto h$より、高いところにある物体が持っている重力による位置エネルギー$U$ は$U \propto mh $ となることが分かります(今回の二つの実験から分かるのはここまでです)。

 実は、他の実験や理論的に考えた結果等も合わせると、高いところにある物体がもつ重力による位置エネルギー$U$ は$U=mgh$ となることが分かっています。

 

重力による位置エネルギー $U=mgh$

 こちらも覚えておくべき式です。先ほどと同様、「自然がこうなっている」ことを、まずは、受け入れてください。

 

1.5.3  エネルギーの計算方法を理論からの導出するには?

 ここでは4つのことを理論的に検証します。

 まずは、運動エネルギーK=1/2mv2が、された仕事の分だけ変化することを運動方程式から導きます。そして、その後、実験的に考えた運動エネルギーと重力による位置エネルギー、(上では考えていないですが)弾性力による位置エネルギーについて、理論的に導きます。

 

検証1 物体が仕事をされると、された仕事の分だけ運動エネルギーが変化する

検証2 速さvで動く質量mの物体の運動エネルギーは確かに、K=1/2mv2で表せる。

検証3 重力による位置エネルギーUは確かにU=mghと表せる。

検証4 弾性力による位置エネルギーUU=1/2kx2と表せる。

 

 エネルギーを考える際にも、(今まで力学で学んだように)着目する物体を明確にすることはとても大切です。どの物体が持っているエネルギーなのかを意識しながら読み進めてください。

 

 

検証1 物体が仕事をされると、された仕事の分だけ運動エネルギーが変化する

 運動エネルギーがK=1/2mv2と表せることを前提として用い、「物体がされた仕事」が確かに「運動エネルギーの変化」と一致することを示します。

 次のような状況を考えましょう。速さv0で動いている台車に、大きさの一定の力を、台車が距離xを動く間加え続け、結果として速さがvになったという状況です。力を加える前(下図の左の台車)と、距離x動いた後(下図の右の台車)の二つの瞬間を比べます。

   

 

 このとき、台車が距離x動く間の運動方程式は次の通りです。

 ma=F

 力が一定なので、加速度も一定a

 加速度が一定であれば、結果として次の公式を使うことができます。

  v2-v02=2ax

 これに①を変形したa=F/mを代入

  v2-v02=2F/mx

 さらに式変形をすると

  1/2mv2-1/2mv02=Fx

 つまり、運動エネルギーがK=1/2mv2と表せることを前提とすると、

 距離x動いた後の運動エネルギーと最初の運動エネルギーの差が、確かに仕事Fxになることが分かります。「物体が仕事をされると、された仕事の分だけ、運動エネルギーが変化する」を示すことができました。

 式にすると、

  1/2mv2-1/2mv02=Fx

 です。なお、変化を表すときには、「あと」-「まえ」で計算することを覚えておきましょう。

 

検証その2 速さvで動く質量mの物体の運動エネルギーは確かに、K=1/2mv^2で表せる。

 先ほどの実験の状況を改めて考えてみましょう。

 鉄球が持っていたエネルギーは木片に仕事をすることで減少し、エネルギーがゼロとなったところで鉄球は静止します。



 先ほどと似た方法を用いて、鉄球が持っていたエネルギーを運動方程式から理論的に導きましょう。

 まず、舞台設定として、図の右側を正の向きとします。

 鉄球の質量をm、初速度をv0、鉄球が木片を押す一定の力を+F(正の向きなので「+」をつけています)、木片が静止するまでに動いた距離をxとします。すると逆に、鉄球が木片から受ける力は、作用反作用の法則から-Fと表せることが分かります。

 つまり、この状況は、初速度v0の鉄球が、一定の力-Fを受けて静止するというように見ることができます。式で表してみましょう。

 

 初速度v0の物体が一定の力を受けて静止したので、次の式が成り立ちます。

  v2-v02=2ax

 物体の加速度は、運動方程式より-a=-F/mです(右向きが正なのでマイナスです)。

 これを代入すると、

  v02=2F/mx

 式変形すると、1/2mv02=Fxとなります。

 つまり、初速v0のとき、木片にした仕事はFxであり、これが運動している鉄球が持っていた「仕事をする能力」つまり、運動エネルギーであるということです。

 以上より、速さvで動く質量mの物体の運動エネルギーは確かに、K=1/2mv^2で表せることが検証できました。

 

 検証その3 重力による位置エネルギーUは確かにU=mghと表せる。

 高いところにある物体は、必ず重力によって仕事をされます。そして、地面においては、その分、運動エネルギーが増加します。必ず運動エネルギーを得られるので、その分のエネルギーは予約されているようなものだと思いましょう。この予約分のエネルギーを位置エネルギーと呼んでいます。

 これを踏まえて、先ほど検証した「物体が仕事をされると、された仕事の分だけ、運動エネルギーが変化する」を用いて考えましょう。

 次のように考えることができます。

 高さhのところにあった質量mの物体は重力の力を受けながら高さh移動する。つまり、される仕事はmg×hであり、落下後の運動エネルギーはmghである。よって、高さhのところにある質量mの物体が持つ重力による位置エネルギーmghである。

 なお、各高さにおける力の大きさは常にmgなので、高さと力の関係は次の図のようになります。いつでも「グラフの面積はタテ×ヨコ」です。この図では、タテが力、ヨコが距離なので、グラフの面積は物体がされた仕事、つまりエネルギーを表します。

 

検証その4 弾性力による位置エネルギーUはU=1/2kx2と表せる。

 一端を固定したバネの他端に物体をとりつけて引っ張ったときの、物体が持っている弾性力による位置エネルギーを考えます。

 ばねは、延ばしたり縮めたりすると必ず引っ張られたり押されたりするので、重力による位置エネルギーを考えたように、今回も弾性力による予約されたエネルギーを考えます(それが弾性力による位置エネルギーです。)

 先ほどまでと同じように、このときも、距離xまで引っ張った状況から、ばねが自然の長さ(自然長と言います)に戻るまでにされた仕事を考えることで、物体が持っているエネルギーの大きさを考えましょう。

 ここで、難しいのは、ばねにつけられた物体が、ばねから受ける力は、バネの伸びによって変わってきてしまうということです。中学校で学んだように、バネの伸びと力の大きさは比例関係にあります。比例係数をkとすると、F=kxとなります。この関係はフックの法則と呼ばれており、また、この比例定数kはバネの伸びにくさを表し、ばね定数と呼ばれています(←伸びにくいほど、kは大きい。伸びにくいほど、同じ距離x伸ばすのに必要な力が大きくなる)。グラフにすると次のようになります。力の大きさがバネの伸びによって時々刻々変わってしまうので、物体がされた仕事を考えることはとても難しいです。

 しかし、我々は「グラフの面積はタテ×ヨコ」であることを知っています。グラフの面積を求めることができれば、その量はグラフの縦軸と横軸を掛けた物理量になるということです。今の場合は、グラフの縦軸が力の大きさ、横軸が距離なので、面積を求めることで力の大きさ×距離、つまり仕事を求めることができるのです。これが分かっていればとっても簡単です。

 上のグラフを見て、距離xのところから自然長(x=0)まで動かすときの面積が、物体がバネから受ける仕事となるのです。計算すると、1/2×x×kx=1/2kx2です。

 以上より、ばね定数kのばねが自然長からx伸びているとき、つながれた物体が持っている弾性力による位置エネルギーUU=1/2kx2と表されます。

 

 以上で理論的な導出は終わりです。実験と理論、両方から導出してみたので、両方から眺め、自然がそのようになっていることを実感してみてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.4 「仕事」「エネルギー」はどうイメージしたらいいのか?

 仕事とエネルギーについてのイメージを、ジュースのイメージでまとめたいと思います。

 先ほどは、仕事とエネルギーの関係をお金の出入りと残高で例えましたが、ジュースに例えるのであればどうなるでしょうか。ジュースで例えるのであれば、ジュースをコップに注ぐこと、コップからこぼれることなどが仕事をする・されることであり、コップに入っているジュースの量がエネルギーの量であると考えることができます。

 また、先ほどの積木の例では、エネルギーの種類が複数あることを、水面の高さや箱の重さで考えましたが、ジュースの例ではコップが複数あると考えるのが良いと思います。運動エネルギーが注いであるコップと、重力による位置エネルギーが注いであるコップ、弾性力による位置エネルギーが注いであるコップなどがあるということです。中身は同じジュースです。あらゆるものは様々な種類のエネルギーを持つことができるので、あらゆるものが複数のコップ(←エネルギーの種類)を持っているとイメージするのです。

 例えば、台車が摩擦のない坂道を下りってくる様子を考えてみましょう。最初は位置エネルギーのコップにジュースが入っていますが、坂道を下っていくとともに、位置エネルギーのコップから運動エネルギーのコップにジュースが移っていきます。位置エネルギーは重力がしてくれるはずの仕事をエネルギーとして考えているので、坂道を下ると、重力がしてくれるはずの仕事が減った分、位置エネルギーが減り、重力が実際に仕事をした分、運動エネルギーが増えると考えられます。

 続けて、坂道を下りきって平らな粗い床に来た台車の運動を考えてみましょう。摩擦を考えます。摩擦があると、摩擦によって台車は遅くなります。台車が摩擦力という力によって仕事(負の仕事)をされ、台車の運動エネルギーが減少すると考えることができます。台車の運動エネルギーのコップから、ジュースがこぼれてしまい、床の(摩擦によって生じた)熱エネルギーになってしまうのです。

 このように、エネルギーを考える際には、ジュースとコップを考えると良いと思います。ぜひ、しっかりとしたイメージを持ってください。

 なお、さらにイメージを膨らますには、PhETと呼ばれるシミュレーションサイトで簡単な実験をしてみるのが良いと思います。このサイトの中の「エネルギースケートパーク」と呼ばれるシミュレーターを用いると、スケートに乗った人の運動エネルギーや位置エネルギー、そしてレールの熱エネルギーが棒グラフとして可視化されていて、とても分かりやすいです。この説明におけるエネルギーのコップが、このサイトで示されている棒グラフに対応します。ぜひ、遊んでみてください。

図:PhET、エネルギースケートボードのシミュレーションより作成